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野口克海(のぐち かつみ)(中学校) 初めて先生になる人たちに贈る       

 私は経験が自分を鍛えてくれるんだという気持ちで生きてきたと思っています。
 20歳代のうちに勉強をしたくて、希望して当時一番荒れている中学校へ転勤しました。その中学校に赴任して初日のことです。職員室に入ると、教頭先生の机の上に生徒がお尻をのせて、タバコを吸っていたんです。
 その子のそばへ行って、「おい、これ先生の机や、降りんかい」と言ったんです。そしたら「おまえ誰や」ですよ。「おれは今日からここの教師になった野口ていうんや」て言ったら「おまえは関係ない」と言って、置いてあったガラスの灰皿をバアっと、私のメガネに投げつけました。まともにメガネにあたり、顔中血だらけになりました。負けるのはいやですから「なにいっ」と言ってその子の胸ぐらをつかんで、一緒になって転げ回っていたら、周りの先生に止められました。「おれもこの中学校の教師になれた」と思いながら顔を洗ったことを覚えています。
 しかし、そういう荒れている子どもたちに、本気になってつきあったらどんなにすばらしいか。先生方は、見た目にはしんどい子でも、子どもの可能性を徹底的に信じてやって下さい。だまされてもいいんです。子どもは変わるという気持ち、その子どもにくらいついていってください。子どもは必ず変わります。子どもの可能性を最大限に信じる教師になってください。
 若いうちに苦労せよと申しましたのは、子どもから学んでくださいということです。
 それから二つ目は親から学んでください。親からいっぱい私も教えられました。万引きはしょっちゅうありました。万引きをした中学一年生の男の子をつれて担任といっしょに家庭訪問をして、父親と話をしました。「今日あったことを自分の口からお父さんに言いなさい」と言うとぼちぼち話はじめました。お父さんは正座して、じっと息子の話を聞いていましたが、盗ってきた品物を畳の上にバラバラと広げたとたん、お父さんは両手をついて畳に頭をガバっとこすりつけながら、「先生すんません。なんぼ出来が悪うても、これはわしの息子です。先生なんでもします。ごめんなさい」と言いながらボタボタと涙を畳の上へ落とされたのです。このひと言で息子が電気でしびれたみたいに「お父さんかんにんして、もうしません」とお父さんの肩にだきついて泣き出した。
 別の万引き事件では、母親が万引きした娘のほっぺたをすごい迫力でたたいて、「なんということすんの、あんたは」と言いながら「お父さんが帰ってきたら、思い切り折檻してもらいます」と言われました。
 このお母さんの体罰、脅しの叱り方は思春期の子どもの心に入らなかった。男の子のお父さんの一言で息子が飛び上がった。思春期の子どもとのつきあい方というのを、私は親から学んだ。
 さて、いい先生の条件は三つあると思います。死にかけの病気をしたり、体が弱かったりして身体がしんどい子どもの気持ちがバッと肌でわかる先生。勉強のできない子どもの気持ちがわかる先生。それから家庭的に恵まれない子どもの気持ちがわかる先生というのはいい先生になります。
 それから学校の先生は世間知らず、常識がないと言われないようにも本を読み情報を得るよう勉強してほしいと思います。

(「教育はこれからがおもしろい」野口克海著 日本教育新聞社 平成6年)
(野口克海(のぐち かつみ):1942年生まれ、大阪府公立中学校教師、大阪府教育委員会、堺市教育長等を経て大阪教育大学監事)

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