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義家弘介(高校)  「私の授業力のアップ法」   

 教育現場では、学級崩壊の原因を子どもたちの問題として議論されがちであるが、授業する教師の授業力や情熱をもっと問い直すべきだと私は強く感じる。
 私は大学を卒業して、母校の教壇に立つためには、卓越した授業力を身に着けることを最重要の課題とした。そのために、塾の講師となった。
 「塾は意欲のある生徒が集まっているから、塾の講師は学校と違って授業がしやすい」と言う言葉を耳にするが、私が進学塾に就職して感じたことは、生徒の疲れであった。学校で授業を受け、放課後から夜九時すぎまで塾で勉強する生徒の「疲れ」であった。
 私は当初、生徒たちの心をつかめるだろうと自信を持っていた。しかし、生徒からの「授業アンケート」で、「あなたは講師失格です。授業は受けたくありません」というものであった。その日から私は変わった。いや、変わるしかなかった。
 技術のない私は、生徒の目を黒板に向かわせたいと思った。私は、連日のように夜中まで板書の練習をくり返した。文字の大きさ、色使い、配置など徹底的にこだわった。私は社会科なので、世界地図を一日に何百回も模写をくり返し、瞬時に地図を描ける技術を習得した。生徒の目が黒板に向かうようになった。しかし、アンケートは「失格ですよ」だった。
 失格の理由を探して、休日返上で「人気講師」の授業を見学させてもらいながら、自分に欠けている点を必死に探した。そして私はあることに気がついた。疲れている生徒たちが、ずっと集中して授業を受けるのは簡単なことではない。人気講師たちの授業には、生徒の興味をおこさせる絶妙な「導入」と、間合いを演出する「笑い」、そしてたたみかけるような「迫力」があった。
 なんとしても、ものにしなければと、私は必死になって雑学の知識を増しながら授業の導入を研究し、暗記科目必須の「おもしろ語呂合わせ」や「親父ギャグ」の研究を行った。
 授業を最後まで集中させるためには、フッと気が抜ける「間」が欠かせない。そのための「笑い」は、いい授業にするための重要な要素となる。
 しかし、それが爆笑になってしまうと、なかなか頭が切り替わらないので授業に戻れず、授業が中断してしまう。その点「親父ギャグ」は面白くないよと、生徒が冷笑し、その瞬間フッと気が抜けて「間」が生まれる。面白くない笑いなので、すぐに授業に戻れるので、かなりのすぐれものなのだ。
 いつしか、「笑い」の「間」ができ、「導入」も上達していった。しかしアンケート結果はまだまだという厳しいものだった。
 努力しても生徒に満足させられず、意欲的に取り組んでいた授業も、面倒で苦痛になってきた。寝たりダルそうな生徒の姿を見て「俺のやる気もますますなくなるじゃねーか」と心の中でつぶやいたとき、突如、生徒たちを満足させられなかった理由が目の前に現れてきたような気がした。思えば私は、いつも生徒たちの評価のみを気にして、生徒の反応を分析しながら、次の手を考え実践してきたのだった。一番大切な「授業することを楽しむ」ということを置き去りにしてきたのだった。
 授業する教師が心から授業を楽しめないで、どうして受る側の生徒が楽しみ、満足することができるだろう。私はやはり生徒たちの評価の通り、授業おこなう者としては失格だったのだ。
 私は変わった。一コマ、一コマの授業で完全燃焼することのみに全力を傾け、つばを飛ばしてほえ、笑い、怒り、そして真剣に語りかけた。
 「センセイって授業が大好きでしょ?」と言われるのがたまらなくうれしかった。いつしか私はその塾で一番といわれるほどの講師となった。
 子どもたちと、どのように関わったらいいのかわからなくなった大人たちはみな、必死になってマニュアルをさがし求め、それにしがみついている。しかし、それでは決して状況は変わらないと私は思う。
 もし、本当にマニュアルがあるとすれば、それは、子ども数だけ、そして教師の数だけ存在しなければならない。
 マニュアルにしがみつく前に、目の前の子どもたちをしっかりと抱きしめて欲しい。安心ということが揺らいでいる現代、方法なんかよりも、みじかにある確かな心の温もりを子どもたちは欲しているのだ。
 大切な子どもに向かって「熱くなる」それだけが、教育の共通のマニュアルであると私は思う。

(「ヤンボコ 母校 北星余市を去るまで」 義家弘介著 文藝春秋 2005年)
(義家弘介:1971年生まれ、高校で退学処分となった不良が、北星学園余市高校の教師となり活躍する。後に横浜市の教育委員、教育再生会議担当室長を経て国会議員となる)


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