石井順治(小学校) 「学び合う学び」 秋田喜代美
私が石井さんに出会ったのは東海国語教育を学ぶ会であった。その時、授業に対する石井さんのコメントはこれまで大学の研究者たちのコメントとは全く違ったものだった。
教室にいる個々の子どもたちの学びやこだわりを見抜き、その豊かさを浮かび上がらせる発言であった。
その発言によって授業が見事に浮かび上がって見えてくるのを鮮やかに覚えている。
聴く者の心に届き響くのは、理論をふりかざしたり、専門家然で語ったりする外側からのまなざしではなく、子どもの言葉につねに誠実に出会い寄り添い、その中にある面白さや豊かさをすくい上げることで、教師に新たな一歩への灯火をつけてくれるという内側からのまなざしだからである。
授業者の苦労や苦悩がわかり、子どもと教師の未来の可能性への信頼につらぬかれているからこそ、つねに慎み深く、素の言葉が添えられる。
目の前にある今ここの子どもたちと教師にとって、その教材を学ぶ世界を通して授業の中でそれぞれがどのように生きているのか、またその学級や教師、子どもがどのように変容したのかを長い眼で見てとらえ物語るというスタンスが石井さんの特徴である。
全体の雰囲気を身体で感知しながらそこにある個と個のつながりという見えない絆を見出して語っている。
石井さんは若い頃から自分の授業を文字記録に毎回起こし、そこから自分の授業を振り返り、人に開き、対話することを自分に課してこられた。その経験に裏打ちされた、言葉と出来事をとらえる確かなまなざしが生きていると言えるだろう。
石井さんは、教師の教え方のノウハウや授業の展開の仕方というのではなく、学び合う学びがどのように織りなしあってつむぎだされていくかという教室固有のあり方の流れを見ようとしているという意味で真の授業の探究となっている。
このスタンス自体が、これからの教師に求められている姿であり、学び合う学校づくりに不可欠なものと言える。
「教師は教えることから学びの専門家へ」とよく言われる。
石井さん自身が教師と共に学び合う学びの輪に入りその学びの世界を真に味わっている。
(「ことばを味わい読みをひらく授業 ― 子どもと教師の『学び合う学び』」石井順治著 明石書店 2006年)
(石井 順治;1943年生まれ 「国語教育を学ぶ会」の事務局長、会長を歴任 三重県の小中学校の校長を努め、退職後は、各地の学校を訪問し佐藤学氏と授業の共同研究を行う)
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