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橋本 武(はしもと たけし)(中学・高校)   「遊ぶように学ぶ」

 私は京都生まれで、教師になることを志して東京高等師範学校を卒業し、神戸にある私立灘中学校に赴任しました。当時、私立校というのは公立校よりも格下でしたが、私立ゆえに公立ではできない自由があり気にいりました。中高6年間持ち上がりで、授業内容は教師にすべて一任されていました。
 私が、薄い文庫本「銀の匙」を中学校の3年間かけて読み解く授業をやろうと思った背景には「自分が中学生だったとき国語の授業で何を教わったのだろうか?」という自問がありました。私は、この自問に何も答えられないことにがく然としたのです。何かひとつでもいいから、子どもたちの心に生涯残るような授業をしたいという想いからたどり着いたのです。
 「銀の匙」の自伝小説を取り上げた理由は、「主人公は十代の少年で、生徒たちが自分を重ね合わせて読みやすい。日本語が美しい。明治の日本を緻密に描いていて、時代や風俗考証の対象になりやすい。ひとつの章が短く授業で取り扱いやすい。散文的で寄り道しやすい」ことでした。私は授業で大切にしていたことは
(1)
寄り道すること
 ひとつの言葉からどんどん話がそれていくことで、生徒たちは遊ぶように学んでほしかったのです。国語が好きと答えた生徒は中学1年のときは5%だったのが、中学3年になると95%の生徒は国語が好きと答えています。
(2)
追体験
 小説にでてくる駄菓子(きんか糖)を食べなが授業をしたり、凧を美術の先生に協力してもらって作り、凧揚げをしました。何年たっても、このことを生徒たちはよく覚えているものです。追体験することは、それほど子どもの心に強い印象を残すのです。
(3)
徹底的に調べる
 小説の中に節句のことが書いてあれば、その起源を調べる。私は「ちょんがくれ」という言葉の意味がどう調べてもわからなかったので、作者に手紙を出して教えてもらいました。生活の周辺のことであっても徹底的して調べることで、国語力の向上につなげることができます。
(4)
自分で考える
 「銀の匙」では、各章の冒頭には、四などと数字がふってあるだけです。私は各章のタイトルを生徒たちに考えさせました。それと、もうひとつの作業が文章を正確に200字に要約することです。語彙力の向上にもなります。
 私は「遊ぶ」ように「学ぶ」姿勢を、子どもたちに伝えたいと思い、実践してきました。遊ぶように学ぶことは、人生で最高の喜びです。そういうことを、少しでも多くの人に伝えたいと思っています。
 遊ぶように学ぶことの最大のポイントは、自ら参加すること。「銀の匙」の授業でも、そのための工夫をいろいろしてきましたが、どの教科においても、学ぶ者が自ら参加したくなるアイデアを授業に盛り込むことが大切でしょう。これこそがプロの教師が行うことだと思います。
 私は「遊ぶ」ように「学ぶ」ことは、人生を豊かにしてくれると思います。ぜひ、あなたが、遊ぶように学ぶことの実践者になられることを、お祈りいたします。
(
) 橋本 武:1912年~2013年、元灘高等学校教頭。旧制灘中学校に国語教師として赴任後同校で50年間教えた。伝説の灘校国語教師として2009NHKで放送され、本が2010年にベストセラーとなる。

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