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話し方の技術を高めるにはどのようにすればよいか

 教師が子どもに向けて話す授業や教室の実践を想定した話術である。話し方の技術を高めるということは、そのまま教師の識見や、人格を高めることを意味するとさえ思えてくるのである。
 明快に話す
 はっきりしていてよくわかるということである。
 明快に話にするための配慮は、まず「何を話すのか」を自分がはっきりととらえていることである。「これとこれを教えよう」というように整理されていなければならない。
 つぎに「平易なことば」で話すということである。
例えば「雑沓」は耳で聞いただけではよくわからない。「人ごみ」と、なるべくやさしく言いかえるようにしたい。
 さらに「構造的」に話すことである。
例えば、「時間的経過に沿って」述べる。「具体的事例から一般化して」話す。など構造化していく習慣を身につけることがじょうずな、効果的な話し方を身につける早道なのである。
 簡潔に話す
 話す内容を簡単にして要領をつくすのである。
 話そうとすることの内容を本当に理解している人の話は必ず簡潔である。複雑なことがらも要領よく整理してまとめられていれば話はずっとわかりやすくなる。
 簡潔に話すためには
(1)
短く話す
 必要なことだけをできるだけ短く話すことである。一言で言ってみることである。深い理解、正しく豊かな知識も必要であるが、一言でずはり言えるまで取捨選択され、要約されていなければ本当にわかっているとは言えないのである。
 授業時間の中ては、あれもこれもと話すことはたくさんあるのだが、つまるところこれ一つというところがおさえられていなければならない。そうすれば話は簡潔になり、授業運びも簡潔になる。
 子どもたちは全員が勉強好きで授業が好きであるわけではない。つまらなさや苦痛を忍んでいる子もいる。そういう子どもたちに、せめて簡潔ですかっとした話をプレゼントしたいものである。それによって、子どもたちは新しい興味や関心を育てられることにもなるだろう。
(2)
箇条的に話す
 上手な話し手は「三つのことを話す」とかの予告をする。聞き手は心の準備ができて、話はうまくつたわることになるのである。
(3)
横道にそれない
 授業中の脱線はしばしば子どもたちに喜ばれる。脱線できる教師は話題を豊かに持っている教師であり、脱線できない教師よりはましであるが、脱線によってしか子どもを惹きつけられないというのでは情けない。
 具体的に話す
 具体的に話すには、つとめてくだいて話すことが必要である。例えば「りっぱな人になりなさい」よりも「誰からも好かれる人になれ」とかいう方がわかりやすい話し方である。
 具体的に話せるということは、教師が本当にわかっているということでもある。それを支える豊かな実力を高めることが大切なのである。
 例示はなるべく身近なものをとりあげるとよい。わかりやすくなる。子どもたちに歓迎されるものに「先生の子どものころの思い出の話」がある。目の前にいて、親しみやすいのである。
 つとめて子どもたちには具体性を持った話し方をするようにと心がけたいものである。
 沈黙と間を生かす
 聞き手は疲れるのでときどき休まなければならない。
 のべつ幕なしにしゃべる人があるが、こういう人の話は案外聞かれていないものである。時には騒音でもある。話には適当な沈黙と間が必要で、話がわかりやすくなり、話上手な人ほど、この沈黙と間を生かして話すことができるのである。
 話の中に沈黙と間をとり入れる効果は、聞き手を話し手の側に引き込むことにある。話し手が沈黙している間に聞き手は話の内容を咀嚼しているのである。そして次の話し手のことばを期待する。話してと聞き手とが結び合っている。
 一方的なおしゃべりは、聞き手を単なる受動的で消極的な立場に追いやる。
 授業中の沈黙に不安を覚えるのは教師がまだ未熟な証拠である。ベテランの教師は沈黙の中で行われている活発な思考活動を見ぬいている。
 有効な沈黙とはたとえば次のような場合である。
 相手に尋ねた後「どんな本を読んでいますか?」、訴えた後「こんなことでよいと思いますか」、重大な発言をした後、主張や意見の後「先生はそのように考えています」
 この他にもいろいろな場合がある。
(野口芳宏:1936年生まれ、元小学校校長、大学名誉教授、千葉県教育委員、授業道場野口塾等主宰)

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