教師の大きな悩みが「困った親」とのつきあい方、親との関係づくりのポイント
私は学校を訪問し教師の悩みの相談に乗っています。「ああ、学校現場はこれほど厳しいのか」と改めて教師の大変さを実感します。「私には現場教師は務まらない」それが正直な気持ちです。
現場教師の大きな悩みが「困った親」とのつきあい方です。先日訪れたある学校の研究主任の教師がタメ息まじりに「子どもはいいんです。問題を起こしても指導できますので。ただ、親の扱いが難しい。こちらの言うことを聞いてくれない。親には指導ができないでいからね」と漏らした。
なぜ、教師にとって「困った親」がこんなに多いのでしょうか。その答えのひとつのアプローチとして、親の世代間格差に注目してみたいと思います。タレントに例えるなら、
「山口百恵世代」(50歳代)は、教師と話をするときに「うちの子が大変迷惑をかけています」と謙虚な姿勢で話を始めます。この世代は「忍耐・強調・連帯」といった精神を身につけています。教師を「立てて」くれるのです。
「松田聖子世代」(40歳代)は個人主義で自己中心的で、人間関係が苦手な世代なのです。傷つきやすく、耐性が低い親なので、自分の子どもが批判されると、自分が傷つけられたかのように思って逆ギレしてしまうのです。つねに自分と子どもが中心に置かれているのです。
「浜崎あゆみ世代」はもっと若い世代で、我慢することを学んでいない人が多い。生まれて初めて我慢を強いられる子育てで、思うようにいかず児童虐待が起こっているのも、この世代です。
もちろん、こうした世代論だけですべての親をくくれるわけではありませんが。
親からのクレームを受け続けた教師はどんどんやる気を失っていくだけです。そして次第に親とその子どもに距離を置こうとするでしょう。親と教師の相互不信が、子どもと学校をダメにしてしまうのです。
親と教師の歩み寄り、信頼と協力の関係が、いまほど求められている時はないでしょう。そのためにも教師は、カウンセリングの研修を受けるなどして人間関係の勉強をし、もっと親とのつき合い方を学ぶべきです。
理不尽なことを言ってくる親に「正論」での説得は通用しません。「急がば回れ」の精神で、まずは親との関係づくりからじっくりと取り組んでいきましょう。
そのためのポイントは
(1)とにかく親の話をよく「聞く」こと。教師はやたらとしゃべり過ぎる。
(2)親を尊重する。その気持ちをかたちで伝える。一人ではなく管理職と一緒に会う。お茶をお出しするなど。
(3)まず、子どもをほめる。問題をもつ子どもはいつも批判ばかりされてきています。ほめると親との関係が良くなります。
このように、まず「関係づくり」に徹したうえで、最後に具体的なお願いをしましょう。
教師は自ら積極的に親との信頼関係づくりに打って出てほしいと思います。たとえば授業参観後の保護者懇談会。これに出席する親は、教育に熱心な人が多い。教師にとって親との関係をつくる絶好のチャンス。そのためのベストな方法のひとつが、構成的(グループ)エンカウンターです。これは、心と心の触れ合いを促すことによって、人間関係を育てる心理学技法です。
まず教師が自分について(趣味・家族のこと・子どもの頃のこと、好きな食べ物など)を親たちに語ります。これを自己開示といいます。教師の人柄が分かると、親は教師に親しみを感じます。親たちも、そのような教師には心を開き、説得にも耳を傾けてくれるようになるでしょう。
親と教師のさまざまな問題は、お互いのコミュニケーションギャップが大きな原因。まずは親しみのもてる関係づくりが大切です。親同士も自分のことを語り合うので親しくなりやすい。これにより「みんなでクラスの子どもを育てよう」という意識が育まれやすいのです。
(諸富祥彦:1963年生まれ、明治大学教授,臨床心理学、カウンセリング心理学、現場教師の作戦参謀としてアドバイスを教師に与えている)
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