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長所も短所も自分の持ち味

 自分の長所にうぬぼれてはならない。自分の短所に劣等感をもつ必要もない。長所も短所も天与の個性、持ち味の一面である。
 お互い人間は神ではありません。ですから、いわゆる完全無欠、全知全能などという人はいるものではありません。だれもが、程度の差こそあれ、長所と短所を併せもっています。そこで人は、ときにその長所を誇り、短所を嘆いて、優越感にひたったり劣等感に悩んだりします。
 しかし考えてみれば、この長所とか短所というもの、それによって深刻に一喜一憂するほどの絶対的なものでしょうか。どうもそうではないような気がします。というのは、お互いの日々の生活においては、長所がかえって短所になり、短所が長所になるようなことが、しばしばあるからです。
 会社経営を通じて長年の間に接してきた、たくさんの経営者の人たちについても、そういう例をよく見かけます。経営者の中には、知識も豊富で話もうまく、行動力も旺盛といった、いわゆる”手八丁、口八丁”といわれる人がいます。そういうすぐれた能力を備えた人が経営者であれば、その会社はまちがいなく発展していくようにも思われます。しかし、実際には必ずしもそうでない場合が案外に多いのです。
 反対に、一見、特別にこれといったとりえもなく、ごく平凡に見える経営者の会社が、隆々と栄えていることもよくあります。
 それは結局、経営者の長所がかえって短所になり、短所が長所になっているということではないかと思うのです。
 すぐれた知識や手腕をもつ人は、いちいち部下の意見を聞いたり相談をかけたりしない傾向があります。部下の提案を「そんなことはわかっている」とかたづけてしまうことさえあります。その結果、ただ”命令に従う”といった姿勢になり、部下の自主性も生かされず衆知も集まりませんから、力強い発展が生まれないのは明らかでしょう。また、自分でやったほうが早いということで、仕事をあまりまかせず、かりにまかせても、いちいち細かく口出しをする。そのため部下はやる気をなくしてしまい、人材が育つということも少なくなってしまいます。
 一方、一見平凡に見える経営者の会社が発展するというのは、その反対で、何でも自分で決めたりやったりするのではなく、部下の意見をよく聞き、相談をかけ、仕事をまかせる。そのことによって全員の意欲が高まり、衆知も集まって、そこに大きな総合力が生みだされる、といった経営を進めているわけです。
 このように、長所が短所として働き、短所が長所として生きるということは、企業の経営に限らず、お互いの日々の生活の中にも、ままあるものではないでしょうか。
 お互いにあまり長所とか短所にこだわる必要はない、という気がするのです。
 長所も短所も、人それぞれに与えられている個性、持ち味であると考えられます。
 ただ、自分の個々の長所をさらに伸ばし、短所の矯正に努めるということも、一面では大切なことだと思います。
 しかし、基本的には、長所と短所にあまり一喜一憂することなく、おおらかな気持ちで、自分の持ち味全体を生かしていくよう心がけることが、より大切なことではないかと思うのです。
(松下幸之助:18941989年 パナソニック創業者、経営の神様と呼ばれ、日本を代表する経営者)

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