教えたいことを教えない授業
算数の授業で大切なねらいの一つは計算ができること。そしてもう一つは、計算について考えることのできる子どもを育てるということです。
例えば、42÷3の計算の授業(4年生)につい考えてみましょう。3年生で12÷3のような九九を1回だけ使って計算するわり算はできるようになっています。しかし、まだ、商が2けたのわり算はできません。
42÷3は、今の自分にはできない。しかし、その計算方法を誰かが教えてくれるのをじっと待っている子どもたちにはしたくないのです。自分から、42÷3という計算に働きかけて、何かと自分の力でやってみようという子どもたちに育てたいのです。
だから、「42÷3をするためには、42を30と12に分けて考えましょう」と絶対に言いたくないのです。「それを言っちゃ、おしまいよ」という気持ちです。
授業では、子どもたちに言葉や動作で親切に教えてはいけないことがあるのです。一方、きちんとおしえこまなければならないことがあることも確かです。授業はこの「教えてはいけないこと」「教えなければならないこと」があることも確かです。の二つの峡間で成り立っています。
私たちが育てたいのは能動的な子どもたちです。積極的に対象に働きかけていく子どもたちの姿を言います。それを支えているものに知識や技能があります。それを子どもたちのものにするためには、きちんと子どもたちに正確に伝えられていることが必要です。かけ算の九九の不確かな子どもは、算数の問題に働きかけることはできないでしょう。知識を確実に自分のものにしておくことが必要です。
しかし、知識、技能だけでは、子どもたちの活動力は育たないのです。自ら対象に働きかけていく経験をすることによって、初めて積極的な子どもが育つことになります。
教えないで教えるというのは、言葉を変えて言えば、自分の教えたいことを子どもたちから引き出すということになります。子どもたちは自分の中から引き出されることを待っています。このことにより、自分の力を自覚し、学ぶことの喜びを知ります。
(正木孝昌:1939年生まれ、高知県公立小学校、筑波大学附属小学校教師を経て、前國學院大學栃木短期大学教授)
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