学校も教師もくたくたに疲れ果ててしまっている
先生たちの精神的なしんどさは、ギリギリのところまできています。それでもなんとかやっていけているのは、子どもとふれあう喜びや、ある程度まで自分で判断し、責任を持って行動できる裁量があるからでしょう。
でも、いまやそれも難しい状況になってきています。国からやつぎばやに降ってくる、無節操で場当たり的な教育改革は、確実に学校現場から活力を奪っています。
さらに学校はこの20年あまりの間、じつにさまざまな荷物を背負わされてきました。世の中のあらゆる問題の原因が、すべて教育にあるかのように吹聴する一部の政治家やマスコミによって「学校がやって当然だ」という意識が急速にふくらみました。
たとえば、朝の7時半に学校に電話がかかってきます。「おい、4丁目の道路に猫の死体があるぞ、子どもの通学路だから何とかしろ!」
かつて、家庭や地域社会で対応していたものが、すべて学校に求められるという構図になっています。まさに「学校はゴミ箱、教職員はサンドバック」なのです。
さらに保護者からのさまざまな要求の中で、たとえば「病気の子どもを保健室で泊めてくれ」といった、イチャモン(学校でどうにもできない要求)が急増しています。そもそも善意の集団である学校は、イチャモンが寄せられやすい環境にあります。
学校はサービスの提供者で、子どもと保護者はサービスの受け手といった間違った関係性を生んでしまっているのです。子どもと保護者と学校は、いっしょになって、協力し合い教育の満足度を高め合うパートナーなのです。
そうした状況のなか、学校や教師の体力のゆとりと保護者と向き合う気持ちは急速に低下しています。学校も教師もくたくたに疲れ果ててしまっているのです。
教育の主人公は子どもたちです。
いまこそ、私たち大人がその事実をしっかり胸にきざみ直してみませんか。保護者も学校も地域もまっすぐ子どもを向いて、手を取り合おうではないですか。
そのためには、保護者と学校・教師が何らかの共同作業をすることが、まず重要だと私は思うのです。
いまの学校は保護者が通っていたころとは相当に様変わりしています。その実像を知ることで安心するし、学校も知ってもらうことで教育活動がスムーズにすすめられる。
そのために学校ガイドブックを作ることによって、共同作業の過程で保護者と学校の相互理解が深まり、ともに手をつなぐきっかけになるのではないか。
学校ガイドブックは、大阪府吹田市立片山小学校をはじめ全国300あまりの小・中・高校で実を結んでいるようです。大事なことは楽しんで作成することです。
(小野田正利:1955年生まれ、大阪大学教授。専門は教育制度学、学校経営学。「学校現場に元気と活力を!」をスローガンとして、現場に密着した研究活動を展開。学校現場で深刻な問題を取り上げ、多くの共感を呼んでいる)
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