教材開発の原点はのってこない子どもを意欲的にすること
私の教材開発の原点は、一人の子どもを思い浮かべ、その子を熱中させるための教材をつくり出すことです。そのことが、クラス全体をも熱中させることになる。
以前は、教材開発に見当違いもあった。しかし、一人の子どもを思い浮かべて、教材開発をするようになってから、失敗は少なくなった。
とにかく一人の子どもをつかむ努力をすることだ。それも、学習にのってこない子どもを意欲的にしようと考えることである。動かない、学習をおもしろがらない子どもを、おもしろがらせようと考えるところから教材開発は出発する。
例として、何事にも興味を示さないA君がいた。何としても熱中させたいと考えた。A君は給食の時間だけは意欲的に食べ、強い興味を示していた。このことを使えないかと考え続けた。
そして食べることを材料にした教材を開発した。子どもたちに次のような宿題をだした。「スーパーなどのお店には試食させるところがあります。とてもおいしいので、できるだけたくさんの種類を試食してきなさい。これを一週間続けるのだよ」と言いました。子どもたちは大喜びです。
子どもたちの喜ぶ反応を見てA君も試食をするという確信を持った。予想通りA君は母親を引っぱり出して、意欲的に試食を始めた。
お店の人がお客に試食させるのは、試食品を「買ってもらいたい」からである。私が子どもたちに試食をさせたのはそのことを子どもたちに気づいてもらうねらいがあった。
子どもたちに、ねらいを性急に迫らせようとすると、必ず失敗する。急がないことである。十分に試食させることによって、そのねらいに気づかせるようにすることが、大切である。
A君の例は、子どもたちに経験を十分に積ませることの大切さ、ねらいを性急に示さず、気づくまで待つことの大切さを私に教えてくれた。
クラス全体の子どもの事実をつかむことは、容易ではないが、抽出した子どもを通して、他の子どもの事実がよく見えてくるようになるものである。
(有田和正:1935年生まれ、筑波大学付属小学校,愛知教育大学教授を経て,東北福祉大学教授。教材・授業開発研究所代表。教材づくりを中心とした授業づくりを研究し授業の名人といわれている)
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