人間には本来悩みなどない
人間には、本来悩みはないものである。もし悩みがあるとすれば、自分がとらわれた見方をしているからだ。
からだが弱い、失恋をした、人間関係がうまくいかない、仕事で失敗をした、など人それぞれにいろいろな悩みがあるでしょう。そうした悩みというものは、なぜ生まれてくるのでしょうか。
本来、悩みなどない、と考えるべきではないかと思っています。本来ないものがあるのは、自分がとらわれた見方をしているからだ。
人それぞれ事情があっていちがいには言えないと思います。けれども総じて言えば、そうした悩みというものは、物事の一面のみを見て、それにとらわれてしまっているところから生まれている場合が多いのではないでしょうか。
松下はどちらかといえば神経質な方で、毎日が悩み、不安の連続であったといいます。
しかし、あとで考えてみると、やはり一つの見方、考え方にかたより、とらわれていることが多かったように思うと述べています。ただ、不安に終始してしまうということはなかったようです。
では松下はどうしたのか、というと、そのとらわれている見方から離れ、別の考え方に立つことによってその不安や動揺を押しきるというか、乗り越えるように努めてきたわけです。
たとえばその一例として、松下が50人ばかり人を使うようになったころ、その中に一人、ちょっと悪いことをする者がいました。その人をやめさせたものかどうか松下は迷い、気がかりで夜も眠れないのです。
ところが、あれこれ考えているうちに、ハッと思いつくことがありました。それは、今、日本に悪いことをする人が何人ぐらいいるかということです。悪いことをする人を完全になくすことはできない。しかも、とくに悪いことをする人たちは監獄に隔離するけれど、刑法にふれない軽い罪の者はこれを許し、見のがされている。
だとすれば、自分が、会社でいい人だけを使って仕事をするということは、虫がよすぎる。そう考えると、悩みに悩んでいた頭がスーッと楽になりました。そして、その人を許す気になったのです。それから後は、そういう考えに立って大胆に人が使えるようになりました。
こうした体験が、これまで数知れずあったと松下は言います。松下の場合、日々の悩みや不安、動揺がきっかけとなって物事を考え直し、それがかえって後々のプラスになることが多かったのです。
考えてみれば、今日のように変転きわまりないめまぐるしい環境の中で、次々に生じてくる新しい事態に直面して、そこに何らの悩みも不安も感じないということはあり得ないと思います。あれこれと思い悩むのが人間本来の姿でしょう。
やはりお互いに、日々、悩み、不安を感じつつも、敢然としてこれに取り組み、そこから一つの見方にとらわれずに、いろいろな考えを生みだすよう努めていく。
そうすれば物の見方にはいろいろあって、一見マイナスに見えることにも、それなりのプラスがあるというのが世の常の姿ですから、そこに悩みや不安を抜けだし克服していく道もひらけてきます。
つまり、それらが悩みや不安ではなくなって、ことごとく自分の人生の糧として役立つという姿が生まれてくると思うのです。
そのようなことから松下は、お互い人間には、本来、悩みなどない、と考えるべきではないかと思っています。本来ないものがあるのは、自分がとらわれた見方をしているからだ、と考えて自らを省みることが、悩みの解消のためには最も大切ではないかと思うのです。
(松下幸之助:1894~1989年、パナソニック創業者、経営の神様と呼ばれ、日本を代表する経営者)
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