絵本を読み聞かせる学級づくり
私の学級づくりの核は、「読み聞かせ」、名づけて「読み聞かせる学級づくり」である。
私が中学校の教室に「読み聞かせ」の手法を持ちこむきっかけになったのは、10数年前の新卒時の経験である。
初めて授業を持った中学校三年生の教室は、授業にならなかった。立ち歩き、授業妨害。トランプをする者。私になどお構いなく「談笑」しつづける者。激しく反抗し、時には机を投げつける。担任の先生が、何度も家庭訪問をしてくださるが、状況は好転しない。くやしさとみじめさに身の置き場もない。
最後に教室に持ち込んだもの、それが「絵本」だった。半ばやけくそであった、と思う。
私がこの時、教室に持ち込んだ絵本、それはC.V.オールズバーグ(村上春樹訳)『急行「北極号」』(河出書房新社)である。ゆっくり読むと15分以上かかる作品だ。
教室の前の席に座り、絵本のカヴァーをはずし、おもむろに読み始める。生徒はいつものように立ち歩きしているが、もうお構いなし。ひたすらただ読む。
するとナント、立ち歩きの男子たちがいつのまにか、読んでいるぼくの前に座って聞いているではないか。最初の5分で、騒然とした学級が静かになった。
ふだんは大騒ぎをする男子生徒が、かぶりつきで読み聞かせを受けた。読み終わると拍手が…。「石川、こういうんならまたやってもいいぞ」とかぶりつきの生徒がいったその場面まで、今でもはっきりと覚えている。
『急行「北極号」』の物語は、
主人公の少年は、急行「北極号」に乗り、北極点へと向かう。北極点でプレゼントをサンタクロースからもらった少年は、喜びいさんで再び機関車に乗りこむが、もらった鈴を落としてしまう。その鈴は首尾よく戻ってくるが、鈴の音を父も母も聞くことが出来ない。最初は聞こえていた妹でも、大人になるにつれて聞こえなくなる。しかし、主人公の少年の耳には、今も聞こえる。少年は言う。「本当に信じていれば、ちゃんと聞こえるのだ」と。
このようなストーリーである。
教師には、学級づくり授業づくりの中で折々に伝えたいメッセージがある。でもそれが生徒の中になかなか通っていかないという現実がある。
しかし、絵本や物語をはさみこめば、柔らかく教師からのメッセージを伝えることができる。しかも、生徒も教師も気持がいい。本当に読み聞かせはすぐれた手法なのだ。
(石川 晋:1967年生まれ、北海道公立中学校教師、授業づくりネットワーク理事、日本児童文学者協会会員、「研究集団ことのは」会員)
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