生徒を信じきる言葉、生徒が自ら心を動す言葉を教師が持つ
長年の教師としての経験上、教師が一度や二度、声をかけただけで生徒が変わらないことは、これまで何度も経験しています。
英語科の教員が病気で倒れたことがありました。校長でありましたが、実際に現場を知るための機会ととらえ、教えに行きました。
1年生の授業に行ったときのことです。私が教室に入っていくと、最初から机に突っ伏している生徒がいました。私は生徒のことを知らなければちゃんと指導をすることはできないので、全校生徒の名前を知っています。机に突っ伏している生徒はAさんで、俗にいう悪い子でした。
まず、「Aさん、起きなよ」と優しく言って起こしました。Aさんはイヤイヤでしたが、グズつきながらも起きていました。それが3日間続きました。
4~6日目は、Aさんは教室の外に出ていました。それで、「Aさん、入るよ」と言って、教室のなかに入れてあげました。
7日目の授業からは、Aさんは教室のなかに入っていました。ただ長年の教師としての経験上、これでもう声をかけなくていいとは思いませんでした。
8日目の授業、Aさんは教室のなかにいましたが、席には座っていません。「今日も、頑張れよ!」と元気よく声をかけながら座らせました。次からもずっと、とにかくテストまでそうやって座らせました。そのときにいつも「なんか最近、顔つきがいいよ」という力づけする声をずっとかけ続けました。
結果、テスト前の最後のほうになってAさんは、それはものすごい眼差しで授業を受けるようになりました。英語のテストはそれまで赤点ばかりだったのが、100点に近い点数を取りました。他の教科も高得点ばかりでした。
私はAさんを校長室に呼びました。「Aさん、すごいじゃないか」とほめました。すると、Aさんはボロボロと泣き出しました。「だって先生、私ねえ」とAさんは話し始めました。Aさんは、中学校では先生に無視されていました。
「無視されたり、怒られたり、しかされていなかった。この学校に入って先生たちは全然違う態度で接してくれたけど信じられなかった」
「それで私もういいや、と思ったころに、校長先生が来て、先生は怒らずに、声をかけてくれた。本当にうれしかった。でも、いつもいつも私は先生に裏切られていたから、信用できるのかなこの人、とも思った」
「それなのに、校長先生はいつまでたっても、テストの前までずっと声を掛けてくれた。途中から私はうれしくて、ちょっと頑張ろうかな、と思い始めた」と、これまでの自分の気持ちを話してくれました。
生徒を信じていてよかったと思いました。「そんなことで?」と思うようなことが、子どもにとってはうれしいんだなあ、ということを再認識しました。
ただ怒って生徒を動かすのではなく、生徒が自ら心を動かせられるような言葉を、生徒を信じきる言葉を、私たちは持っていなければなりません。
(長野雅弘:1956年生まれ、入学者が激減してつぶれるとまで噂された女子高校を校長として授業のみの改革で2年目に人気校にしてV字回復させた)
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