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日々に楽しまざらんや

 今から19年前、突然に私はひとり暮らしは始まりました。夫は温泉旅行のツアーにでかけて露天風呂で心不全をおこし夢のようにあの世に逝きました。それに加えて息子が半年後、すい臓がんでなくしたのです。息子の看病をしているとき、私の体も胃がんに侵されていました。すぐに胃の3分の2を切除し、幸いにも再発することはありませんでしたが、たった半年のあいだに、私は夫と息子のふたりを同時になくしたのです。
 この出来事は、私の人生に大きな影響をもたらしました。死は突然にやってくる。頭では理解していたことですが、人間の命は、いつどうなるかわからない。だからこそ、私は日々を「人にも私に対しても細やかな心遣いをする」「楽しいことや何かを思いつけばすぐに行動に移す」ように心がけているのです。
 寂しさや不安とつき合っていることが何ともったいないと思えてくる。とくにマイナスの感情というのは、放っておくとどんどん増えていくもの。せっかく目の前に落ちている楽しさが見えなくなってきます。どうせ人間の頭は一つのことしか考えられないのなら、前向きのことだけで頭をいっぱいにしたい。そう思います。
 私は幼い頃から好きだった「徒然草」の一節を思い出すようにしています。「在命の喜び、日々にたのしまざらんや」というくだりがあります。
 「せっかく生きているのだから、その喜びを感じつつ、日々楽しく生きること」そういう意味です。毎日楽しいことを見つける。楽しみは「ある・なし」ではなく「感じるか否か」ということです。
 仕事のない日、部屋のソファーに腰を掛けていると、猫が私の膝に乗ってきます。金色の目でじっと見つめている。そのときに私は思うのです。「ああ、今日の楽しみは、この猫ちゃんの目なんだな」と。
(
清川 妙:1921年山口県生まれ、教職を経て作家。多岐にわたるテーマで執筆、講演で活躍)

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