学校が荒れたり学級崩壊にならないようにするにはどうすればよいか
最近は世の中どこでも、子どもへの接し方が母性的になっているようだ。しかし学校の場合は父性的な要素が必要である。
いやなことでも我慢してやりなさいとか、自分のことだけ考えてはいけないというように、子どもに拒否したり、強制するような姿勢が教師の側に必要なのである。もちろん、その一方で、場合に応じて子どもたちの状況をそのまま受け入れるという母性的な要素も必要だが。
父性的なものがなければ、学校という集団を維持することは不可能なのではないかと思う。
いま小学校はほとんど母性的になってしまった。いま、小学校がいちばん考えなければならないことは、教師-子どもの関係をどうするか、学校の役割は何かということだろう。
どんなに騒いでも、子どものそのときの状況を受け入れ、言葉で説得しようとしているようだが、それが学級崩壊を生み出しているのではないか。
クラスという集団を安定させるためには、守るべき原理を無理やりにでも押しつけなければいけないと思う。そして、あの教師は怖いと思わせるような、ある種の力がなければクラスを維持していくのは無理だろう。
子どもは言葉で言うことを聞くわけではない。欲望にしたがって体が勝手に動いてしまうのだから、それは力で抑えてやらなくてはいけないのである。
たとえば、どうしても言うことを聞かなかったら、いまはゲンコツをふるうわけにはいかないから、とりあえずは、烈火のごとく怒鳴りつけるしかないだろう。それでもくり返すようだったら、親に来てもらうから、いまやっていることを、そのままやってみせなさい。それでお父さん、お母さんに判断してもらうからと言う方法もあるかもしれない。
大切なのは、教師の生徒に向かう姿勢である。あっ、この先生は怖いというふうに思わせることなのだ。怖いからとりあえずは黙っていなくてはいけないとか、座っていなくてはいけないということをくり返すなかで、自分を抑える力を少しずつつけるようにしなくてはいけないのだ。
小学校の教師たちが父性的な面をほとんど出さなくなっては、クラスを維持していくのは無理だろう。
中学校でも、この先生は怖いと生徒が思うような教師がいないと、学校そのものが成り立たない。仮にやさしい教師がばかにされて、生徒が言うことを聞かなくなっても、これ以上やると、怖い教師が出てくるかもしれないからこの辺にしておこうというような、そういう教師の共同性をつくっておかなくてはならないのだ。
それをしないで、一人でやろうと思っても無理である。問題なのは、教師たちも事態がよくわかっていないということである。社会が変わり生徒が変わってきているのだから、これまでと同じようなやり方は通用しなくなっているのだ。教師のほうに力量がないということだけではすまないわけである。
一般的に、校長は、教師個人の力の問題だと考えているようだが、事はそんなに簡単ではないのだ。私も偉そうにいろいろ言ったりしているが、現場では、私の個人的な力量だけでなんとかなることなどほとんどない。実際は、その学校の教師の共同性と、それを支える親たちの力に支えられて、なんとか教育力を発揮できるのだ。
安定している学校の場合には、教師のなかに父性的な要素を持った何人かいて、あるときは生徒を怒鳴りとばし、全校集会で大きい声で号令をかけ、おしゃべりをしている生徒を全体の場で叱りつけるというように、陰で基本的なところを押さえているということがあるのだ。
ところが、このことがよくわからず、自分の力でやっているんだと思い込んでいる教師も多いから、そういういやな役割を引き受けている教師が転勤していなくなったとき、あっというまに荒れてしまうということがありうるのだ。
(河上亮一:1943年東京都生まれ、埼玉県公立中学校教諭、教育改革国民会議委員、日本教育大学院教授を経て、埼玉県鶴ケ島市教育委員会教育長、プロ教師の会主宰)
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