子どもたちはその学校の教師たちに似る
前田勝洋はここ数年、年間100回以上現場を行脚しました。
ある中学校を訪問したときのことでした。中学2年の道徳の授業を参観しました。資料をもとに「思いやり」を深めようとしていました。ところが、子どもたちはまったく授業に乗ってこないのです。拒否しているような態度です。明らかに無気力な表情と、暗くて重い空気に支配された教室でした。授業は教師の説明に終始して終わりました。
あとの協議会で、前田は、今日の授業をこの学校の教師たちが、どのように見ているか、興味がありました。
協議会では「今日の資料の読み込みができないのは、子どもたちが体験不足で、幼いからだ」という発言が出てきたのです。全体の雰囲気もそれを肯定する動きでした。「国語の授業でもあらすじさえつかめない」「あの子たちは、入学のときから、まったく落ち着かずにダメなんですね」と異口同音の主張が続きました。それは明らかに、授業の成立しない理由を子どもの「幼さ」や「彼らの持つ資質」にして結論づけようとするものでした。
前田は、その場の空気がとても嫌でした。どうしても、これでこの会を終えてほしくないと思いました。
「先生方は、この子たちが幼いと言ってみえますが、ほんとうに幼いからあのような授業態度になっていると思ってみえるのでしょうか」前田の語気は明らかに荒くなっていったと思います。その場の多くの教師たちの表情は、なんとも不愉快な表情に変わっていきました。
「先生方、あの子たちは幼くありませんよ。そうではなくて、学習を拒否しているのですよ。それが読み取れないのですか」前田は投げやりで、口を硬くつぐんでいた子どもたちの具体的な姿を上げながら、話しました。
「彼らは、あなた方を信頼していないのです。表面的な建前論的な授業など、もう信用していないのです」と、前田は言わざるを得なかったのです。
そんなことを言いながら、参加している教師の姿を見ていると、それはあの子どもたちの表情、あの子どもたちの学習参加拒否の表情と酷似しているではありませんか。
驚きました。子どもたちは、その教師たちに似るということを目の当たりにした瞬間でした。前田は恐ろしくなりました。
(前田勝洋:1942年生まれ、元愛知県公立小学校校長。学び合う教師を常に意識して実践)
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