しつけは教師が根負けしたらおしまい
この十数年で生徒がひじょうにひ弱になった。具体的に何がひ弱になったのか。まずなによりも、生活のかたちの崩れが大きい。しつけ、あるいは身のこなしの崩れと言ってもいい。
たとえば、席にきちんと座ったり、朝会などできちんと立っていることができないのだ。まるで背骨がないかのようだ。また、箸の持ち方、ご飯の食べ方、雑巾の使い方といった、ごく基本的な生活動作もうまく身についていない。
生活もひどくだらしなくなっている。身のまわりの整理がよくできないのだ。机のなかにいろんなものを詰め込んでごちゃごちゃになっていても全然気にしない。時間どおりに体がうまく動けず、チャイムが鳴っても席について授業の用意をして待つということができないため、授業がなかなかはじめられないのだ。
このように自分で状況を判断して自然に行動することが身についていないため、教師に言われて無理やり体を動かすことになるから、生徒はよくため息をつく。生活のかたちが身についていないから体がスムーズに動かないのだ。
学校の役割は、子どもが社会に出て、一人前の社会人として生きていくのに必要な基礎的な力を身につけさせることにある。
いま私が受け持っている3年生は、1年生のときからかなりきつく言って、なんとか学校での集団生活ができるようになってきた。教師のほうが根負けしたらおしまいだ。一つひとつの石を積んで崩れたらまた積んで、ということをくり返して、やっとここまできたという感じである。
世の中が変わったのだから、そんなことは身につけさせなくてもいいのかな、私のほうが古くなったのかなと思うこともある。
しかし、世の中をみれば、たとえば時間どおりに動くことがいかに大事かがわかる。だから、大人になって会社に入ったり、自分で商売をはじめたりしたとき、時間を守って動く能力は絶対に必要だろうと、気をとり直して生徒に立ち向かうことになる。
時間どおりに動くためには、口とか頭によってではなく、体が自然に動くようにしなければいけないのだが、それには、小さいときからしつけがきちんとされなければならない。
だから、学校だけがいくらがんばっても、限界があるのだ。最近私は、生徒への要求水準をどんどん下げざるをえないと思っている。
(河上亮一:1943年東京都生まれ、埼玉県公立中学校教諭、教育改革国民会議委員、日本教育大学院教授を経て、埼玉県鶴ケ島市教育委員会教育長、プロ教師の会主宰)
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