打たれ強さと自在の精神を
授業中、私が教科書を読み始めたとたん「センセー、何ページ」その声に戸惑いがありません。私は「さっき言っただろう、60ページだよ」再び私が読み始めます。1,2分もたたないうちに「センセー、何ページ」と明るい声。思わずキレそうになります。
要するに、私が生徒に向かって指示したりすることは、自分に向かってのものではなく、ほかの多くの級友に向かって言っていることであると、彼らは思っているのです。自分の名前が呼ばれた時に初めて自分に向けられていると察知するのです。
かつての学校は、困窮から、はいあがるための場所でした。学校でどう生きるかが、社会でどう自己実現できるかに直結していたのです。学校には見えない「権威」が確かにあったのです。
今は貧しさが生きるバネになった時代とはまったく違うのです。ベテラン教師であっても、授業をしっかりと成立させるのは至難の業と言わざるをえません。際限のない私語や立ち歩きなど、そんな現象に苦慮している学校がたくさんあるのです。
授業技術の錬磨と創意工夫によって、克服できるのでしょうか。私は無理だと思います。年間すべての授業を生徒が興味の持てるものにしようなど、しょせん無理な話なのです。懸命に教材研究をし、創意工夫を授業に生かそうとした教師ほど、その限界をよく知っているのではないでしょうか。能力のそれぞれ違った40人の生徒を前にして、彼らが等しく興味を持ち、理解を深められるような授業などありえないということに現場の教師は気づいています。
技術や工夫は必要ないなどと言っているわけではありません。むしろ最大限の努力はしてしかるべきでしょう。ただ「一生懸命やれば必ず子どもは変わる。変わらないのは技術と工夫が足りないからだ」という精神主義が教師を追いつめてしまうのです。「教師は授業で勝負」だからと自分を追いつめることはありません。
私は、授業に限らず学校のさまざまな場に、かつての古き良き時代の学校幻想を追い求めるのではなく、今を前提にした、新しい大人と子どもの秩序を生み出すことが大切だと思っています。
私たち教師が忘れてならないのは、こうした限界を抱かえているという学校というところに身を置いているという時代感覚です。打たれ強さと、精神の自在さが必要だと思います。そこから、旧来の学校観、教育観、子ども観にとらわれない、新しい現実を読み解く方法をつくり出さなければならないと思うのです。
(赤田佳亮:1953年生まれ、横浜市立中学校教師、組合執行委員)
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