良い学校に進学すれば幸せになるという魔法の杖がなくなった
「しっかり勉強して良い高校、大学に入り、一流企業にすれば、終身雇用によって豊かで幸福な未来が約束されている」という神話が、高度成長期にはあった。
そしてこの神話が、教師たちに「魔法の杖」を与えていたのだと私は思っている。
もし、言うことを聞かずに問題行動をおこす生徒がいたら、教師は生徒に「おまえ、そんなことやっていたら、まともなところに進学できないぞ」と言えば、子どもたちは教師の言うことを従順に受け入れるしかないからだ。
これが私の言う「魔法の杖」だ。これさえ振り回していれば比較的たやすく多くの生徒たちを牛耳ることができた。ともあれ、この「魔法の杖」が通用した時代というのは、教育に対する情熱を持たず、ただ生活の安定だけを求めて教師になったような人間にとって、天国のようなものだったに違いない。
しかし、今はそういうわけにはいかない。神話が崩れ去り「魔法の杖」など振り回しても何もでてこない。
にもかかわらず、教師が生徒と距離を置いて畏怖感を持たせようとしたら、自分たちのことを見ていない人間に「言うことを聞け」と言われても「どうせ見てないんだから」と生徒は勝手な行動に走ることになる。
「先生たちは僕たちのことを何も見ていない。話もしてくれない。自分の都合だけ考えて、僕たちのことを知ろうともしていないんだ」と不信感を募らせるだけだろう。
ところが、そんな状況になっているにもかかわらず、いまだに多くの教師が過去の方法にしがみついている。相手が言うことを聞かないとなると、さらに畏怖感を抱かせようと思って、それまで以上に生徒との距離を広げようとするのだ。
高度成長期までの「神話」が消え失せ、社会全体のルールが変わっているのに、教師たちだけは過去のモデルを実践している。こんなことでは、学級崩壊するのも当然の成り行きだと言わざるを得ない。
(義家弘介:1971年生まれ 中学生で不良と呼ばれ高校中退し家から絶縁される。里親の元で大学を卒業し、塾講師、高校教師になり、ドラマ化され評判となる、横浜市教育委員を経て国会議員)
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