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いじめ被害者と思われる子どもをどのようにして守ればよいか

 いじめられた子どもがいたら、まず一番に最初にしてあげなければいけないのは、その子の心のケアで、じっくり、心が落ち着くように、時間を充分に取る必要があります。
 いじめは、どんどん巧妙に、複雑になっているので、いじめ被害者はなかなか本当のことを言いません。教師に言ったら、教師が何をするか、子どもはとても不安です。
 ある時、母親から電話があり「息子の様子がおかしいから、それとなく様子を見てほしい」と依頼を受けたことがありました。当時、僕は生徒指導主事をしていて、毎朝、校門に立って挨拶をしていましたが、その子(中一、政夫:仮名)の表情は確かに気になっていました。
 それとなく、政夫君のクラスの子から聞き取り調査をし、僕は直感で「いじめの可能性が高い」と判断しました。さっそく、母親に電話をしました。
 「今日の夜、家に行って話をしたいと政夫君に言ってください。政夫君がいいと言ったら電話をください」と話しました。
 しばらくすると電話があり、政夫君が来てほしいといっていると連絡を受けました。
 そこで、その日の夜に政夫君の家に行きました。僕はできるだけ、微妙な問題で子どもと話をするときは、その子の家に行くようにしています。深刻な問題、特にいじめの疑いがある場合は、家で話すようにしています。しかも、話をするときは、保護者にも席を外してもらって、必ず一対一で話すようにしています。
 政夫君のときも、政夫君の部屋で一対一で話しました。最初は、政夫君の部屋にあったゲームの話をしたりしていましたが、なかなか核心に触れるような話をしませんでした。
 「政夫君、勇気を出して話してごらん」と切り出しました。
 政夫君は困ったような表情をして、黙ってしまいました。僕は、政夫君の目をじっと見ました。いくら待っても政夫君は何も話しません。そこで、心の中で「1……2……3……4……」と数を数えはじめました。こころの中でゆっくり100まで数えました。静かな時間が流れました。
 「大丈夫だよ。政夫君がしていいと言わなければ、僕はなにもしないから」と言いました。
そして、また「1……2……3……4……」と100まで数えました。とても静かでした。
 僕は、教師を2年間お休みして大学院に通い、その間にカウンセラーの資格を取りました。最初に教えられたのが、間の取り方でした。
「黙っているとき、子どもは心の中でいろんなことを考えている」と教えられました。
「君は、機関銃のように話すから、子どもは考える暇がない」と何度も教えられました。
 実際に、自分のカウンセリング場面を録音して、自分の沈黙の時間を計りました。自分では無限に近いくらい待ったつもりでも、実際にストップウォッチで計ると10秒そこそこ。スーパーバイザーには、毎回叱られました。で、身につけたのが心の中で数を数える方法。これは非常に有効で、今でも続けています。
 事態の深刻さに応じて待つ時間は上下します。いじめ被害の告白や万引きを自白する場面等、子どもが様々なことを考えなければならないときは、だいたい100数えるようにしています。
「大丈夫だよ、僕がどう動くか、政夫君と相談して決めるから、約束するよ」
 政夫君は、心の中で、いろんなことを考えていることがありありとわかりました。きっとこんなことです。
「自分がいじめられていることを言ったら、竹内先生は、武君(いじめた子:仮名)に何というだろう。呼び出してきつく怒ったりするのかな?」
「先生が怒ったら、ちくったと言われて、もっといじめられるかな……」
「お母さんも怒って、武君の家に怒鳴り込んだりしないかな……」
 ここから政夫君は、自分がいじめを受けていることを話し始めました。
 話し始めたら、後は大丈夫です。聞くことに徹します。いじめ被害の告白の場合、たいてい、最初は、つじつまの合わないことが多いようです。多くの場合、実際よりかなり軽い被害として話し始め、なかなか個人名は出さないです。
 政夫君の場合も同様でしたが、矛盾点は一切指摘しないで、ひたすら話させます。前屈みで政夫君の顔をじっと見て、頷きながら聞いていくうちに、だんだんと本当のことを話し出します。「そっかぁ、つらかったなぁ……」と共感しながら聞いていきます。
 2時間くらいかかって、政夫君は自分が受けている、凄惨ないじめの全貌を話してくれました。
「政夫君、僕は、君のためにできるだけのことをしたいんだ。まずは、お母さんに話していいかな」
 政夫君は、小学校時代にいじめられた経験を話しました。そのとき、母親に相談したら、母親は怒り狂って、学校に行き、相手の家にも行ったことを一気に話しました。先生も相手の子をみんなの前で強く叱りつけ、クラスみんなに、「いじめがこのクラスに起こってしまい、私は失望しました」と発言したと言います。
 それ以来、いじめは陰湿になり、クラスみんなから無視され、余計つらくなったことを話しました。
「だからお母さんに言いたくなかったんやな?」と話すと大きく頷きました。
「うん、話したら、お母さんも先生も暴走するから、話せない……」
「大丈夫、お母さんには、僕から上手に話すから安心して。君がいいと言わないことは絶対にしない約束してから話すから」……。
「ほんと、ですか?」あとは非常にスムーズでした。
 お母さんとお父さんと政夫君と僕の四人でこれからのことを相談しました。その日は次の二点だけを決めました。
(1)
担任、学年の先生、保健室の先生、部活の顧問、教科の先生、それにお父さん、お母さんを入れて「政夫君支援チーム」を作ること。
(2)
政夫君が「勉強、遅れたくない」と言っているので、明日からも登校し、竹内が政夫君が安心するまで、朝、政夫君が登校してから、夕方下校するまでずっと政夫君の教室の前の廊下に座ること。
 最終的には、学級全体への指導、学年全体への指導まで行いましたが、すべて政夫君の同意の元に行いました。話す内容や、その場に政夫君がいるかどうかまで、すべて相談して決めました。いじめ被害者への指導の際、とても大切にしなければいけないことです。それの保証がないといじめ被害者はなかなか話せません。
 いじめの事実を話すとき、たいてい、子どもの話は二転三転とします。なかなか本当のことを言わないことが多いです。理由は、すべて正直に話したときの大人の反応をおそれているからです。大切なのは、こちらを信頼してもらうこと。そういう意味でも、約束したことは絶対に守らなければなりません。どんな緊急事態が起こっても、約束したことは必ず守ることが必要です。
 いじめ被害者を守るとき、廊下によく座りました。そのときは、朝から自分のリュックサックにお弁当と水筒とパソコンを入れて持って行きました。それに携帯電話を持っていれば、職員室に帰る必要がないからです。廊下に座って、パソコンで仕事を一日していました。
 子どもたちにはなぜ、ずっと座っているかはあえて説明しませんが、たいていの子どもは気づいていて、僕がずっと座り続けていると側に寄ってきて、「先生、ありがとう」と言ってくれたりします。何日か続くと、生徒は「先生、本気やな」と思ってくれるようです。教師が認められる瞬間です。僕のように力のない教師でも、毎日、続けたら生徒にはいろんなことを訴えることができることに気づく瞬間です。
 ある寒い冬の朝、いつものように座っていると、ある女の子が、「先生、お疲れ様」と言って、ホッカイロを手渡してくれました。とてもうれしかったので、翌日、生徒指導だよりに掲載しました。
 するとうれしいことに、次の日、多くの生徒がたくさんのホッカイロを持ってきてくれました。中には「お母さんが、渡してって」と言ってくれる子もいました。とても暖かく助かりましたが、それ以上に心が温かくなりました。
(
竹内和雄:1965年大阪府生まれ、中学校で20年間教師、大阪府寝屋川市教委指導主事を経て2012年より兵庫県立大学准教授。生徒指導を専門とし、いじめ、不登校等への対応方法を研究。学校心理士。ピア・サポート・コーディネーター)

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