平凡な日々の中でも、心のもちかた次第で大いに体験を積むことができ、それらがすべて人生の糧となって生きてくる
塩の辛さといったものは、いくら頭で考えたり、目で見たりしてもわかるものではないでしょう。自分で一口なめてみて、自ら味わってみて初めて塩というのがわかる。そのように体験を通して初めてものの本質をつかみ、理解することができることが少なからずあります。
では、体験を積むとはどのようなことをいうのでしょうか。大きな成功とか失敗を経験することでしょうか。決してそうではないと思います。平凡な日々の中でも、心のもちかた次第で十分体験を積むことができます。むしろ、そうした日々の体験というものがきわめて大切ではないかと思うのです。
たとえば、お互いが毎日仕事をしていくうえで、これはうまくいったという場合でも、よく考えてみると、
「ちょっと行きすぎでまずかったかな」
「あれは失敗ではないが、もっとうまい方法があったのではないか」
といったことがいろいろあると思います。
そういうものを自ら反省し、味わうならば貴重な体験になる。
そのように、小さな成功と失敗とから成り立っている日ごろの仕事の一つひとつをよく味わっていくならば、平凡な日々の中でも、さまざまな体験をもつことができ、それらがすべて人生の糧となって生きてくると思うのです。
こうした小さな目にも見えない日々の中の体験は、いわば心の体験とでもいうべきものでしょう。
形に現れた成功や失敗の体験だけでなく、この心の体験を日々重ねていくことが、特に変化の激しい時代に生きる私たちには、きわめて大切なのではないでしょうか。
(松下幸之助:1894-1989年、パナソニック創業者、経営の神様と呼ばれ、日本を代表する経営者)
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