「ベル(着)席」を全員に守らせた、どのようにしてできるようになったのか
学校が荒れると、手がつけられなくなる。転任した中学校がそうだった。廊下にたむろして、ベルが鳴っても教室へ入らない。ともかく自分の学級(1年生)だけでも「ベル(着)席」を守り、生徒の手で朝の会ができるようにしたいと考えた。
帰りの会でクラスの生徒に次のように呼びかけた。
「中学校は、自分たちの手で朝の会をやるところだ。先生が『おはようございます。今日の予定は・・・』なんてやらない。司会をする人がここに出てきて、みんなを仕切って朝の会をはじめます。司会者は学級の数ある仕事のなかでも、なかなかかっこいい仕事だ」
と説明した。
「司会のやり方は先生が教える。この学級を少しでもよくしたい気持ちがあれば、すすんで司会の仕事にやる気をみせてほしい。司会をやってみたい人は、放課後残ってください」と呼びかけた。
生徒に求めるものは「やる気」だけでよい。どうやるかは教師が教える。これが指導のセオリーである。だから
「やる気さえあればやってみろ。うまくいかないのは先生の責任なんだから」
と呼びかけた。
このCMが成功して、放課後にクラス42人の内、33人が集まってくれた。
「よく集まってくれた。こんなにやる気のある学級を担任したのは始めてだ。ありがとう。では、全員、朝の会の司会者になってもらう」
と私が言うと、生徒はびっくりした。
「多過ぎるんじゃないの。先生」
「少し多過ぎる気もするが、司会者の数は何人と決まっているわけじゃない。気にするな。みんなで楽しくやろうや」
33人の生徒を、時間係(A班)・集合の声かけ・効果音係(E班)・開始の合図係(C班)・出欠の合図係(B班)・予定発表係(D班)の役割別に5つのグループにわけた。
次の順番で朝の会を行うよう集まってくれた生徒に説明した。
(1)朝ベルのなる1分前に、A~E班の順に並んで、33人全員が教室の前に立つ
(2)E班は入口に近い位置だから、入口から顔を出して、廊下にいる人に「朝の会が始まるぞ」と声をかける
(3)みんなが教室へ入るとベルが鳴る。鳴った瞬間、司会者33人全員で「おーす」と挨拶する
(4)C班が「4月15日、朝の会を始めまーす」と言う
(5)E班が、2つのタンバリンを持って、ジャラジャラと鳴らしてからポンと打って「プログラム1番」と叫ぶ
(6)B班は1歩前へ出て「出席をとりまーす。1班」と言って、1班の出欠係が「欠席なし」と報告をする。全員が「おーす」と応える。「次に2班」。出欠係が「欠席、鈴木君。遅刻、内藤さん・・・・」と順番に聞いていく。B班の一人は黒板に欠席者などの名前を書いていく。
(7)出欠報告が終わると、E班がまたタンバリンを鳴らす
(8)B班は「プログラム2番、今日の予定」と言う
(9)D班が「今日の予定を発表します。時間割のとおりですが、数学は宿題がありました」
もし、朝の会で、おしゃべりする生徒、歩き回る生徒がいるときは、次のようにする
(1)まず、注意する前に、効果音係が鋭く笛を吹く
(2)その笛が合図で、全員、怒った顔になり、右足を一歩前へ出しながら、右手で、その人を指し「静かにしてくださーい」と叫ぶ
こんな練習を繰り返して、翌日の朝の会に臨んだ。
司会者が33人、教室の前にいるということは、座席にいるのはたったの9人である。一人ひとりがよく見えるから、ちょっとでも私語をすると「静かにしてくださーい」と大声で言われるので、静かにするしかない。初日は大成功だった。
一方、おさまらないのは、司会にならなかった9人の生徒である。放課後、そのうちの3人が「おれたちも司会をやりたい」と言ってきたので、36人の司会者集団によって、朝の会が開かれることになった。この結果、私の学級だけが、定時に朝の会が始められるようになった。
もっとも、1年間、36人で司会をしたわけではない。少しずつ減らしていった。
まず、朝の司会の生徒36人を18人ずつの半分にわけ、一方を帰りの会の司会にあてた。
やがて、朝の会・帰りの会とも8人ずつ、一日交替であたるようにし、さらに4人ずつに分けて、4日交替であたるようにした。
こうして、2学期からは男女ペアで、順番に朝と帰りの会の司会ができるようになった。
(家本芳郎:1930~2006年、東京都生まれ。神奈川の小・中学校で約30年、教師生活を送る。退職後、研究、評論、著述、講演活動に入る。長年、全国生活指導研究協議会、日本生活指導研究所の活動に参加。全国教育文化研究所、日本群読教育の会を主宰した)
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