どのような教材と、どのような形で子どもたちと出会わせるかが、授業をつくるうえでもっとも重要である
教材や視点や発想によっては、今でも子どもたちが心をはずませて学ぶような授業を創っていくことは可能です。
一見、学ぶ意欲などなさそうに目に映るその同じ子どもたちが、価値あることや、自然や社会や人間の本質にかかわることには、不思議と目が輝きだすのです。
子どもたちは、恐ろしいほどに、教材が学び値するものかどうか、一瞬にしてかぎ分けてしまいます。現代の子どもたちは学習意欲がないのではなく、むしろ真の学びに飢えているのです。そんな子どもたちの要求にどう応えるかが、私たち教師の課題です。
そのためにも、どのような教材と、どのような形で子どもたちと出会わせるかが、授業をつくるうえでもっとも重要なことの一つです。
すぐれた教材には、子どもたちを引きつける魅力があるからです。子どもたちは一瞬にして、教材の値打ちをかぎ分けてしまいます。その感覚の鋭さには、感心するばかりです。それだけに、教材にこだわり続けるということは、授業を創っていくうえで不可欠です。
理科の授業で魚の卵についての学習を考えてみます。
魚も仲間を増やすために、たくさんの卵を産みます。タラの卵を数えることで、子どもたちに魚の繁殖力の大きさを実感してもらうことにしました。
タラコは、朝早く近くにある市場へ出かけて買ってきました。教室でタラコを出すと、子どもたちの目はグーンと輝き出します。「タラの卵を簡単に数えるいい方法はないだろうか」と問いかけると、みんなで考え合いました。すると「タラコ全体の重さを量り、そのあと、1gのタラコをとり、卵を数え、それにタラコの重さをかけると、タラコ全体の卵の数がでるはずだ」ということに気づいたのです。
子どもたちは、グループで夢中に数を数え始めました。教室はしーんとしています。子どもたちは自分のグループのタラコの卵の数が全体でいくつになるか興味しんしんなのです。結果のでた班から黒板に卵の数を書いてもらいました。275065個、398130個、284960個と、タラコの大きさがちがうから、数はかなりちがっていました。
子どもたちに授業の感想を書いてもらいました。「ぼくのうちで食べているタラコの卵の数がいっぱいあるなんて、とてもびっくりした。タラコ一つに何十万個のいのちを入れているんだなあと、とても勉強になった」
みんなで知恵を出し合えば、いい方法が見つかるものであることを体験したのです。
学ぶということは、この自然や現実をとらえる多様なものさしを自分のものにしていくことでもあります。毎日の授業を通して、学ぶ意味を肌で感じとっていきます。
子どもたちは、現実や自分たちの生活が見えてくるような学習には、強い関心を示すものです。子どもたちの姿は、授業や教育のあり方を教えてくれます。
(今泉 博:1949年生まれ、東京都公立小学校教師を経て北海道教育大副学長(釧路校担当)、「学びをつくる会」などの活動を通して創造的な授業の研究・実践を広く行う)
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