親も教師も自分をこわし新たな自分を生み出していくことに取り組まなくては、子どもたちが希望の持てる場は作れない
私は教師生活の最後に、子どもたちと親が演ずる「孫悟空」を中国まで公演に行ったりして、足掛け3年かかわりました。
みんなでひとつの劇を作っていく中で、私はほんとうにさまざまな「親のエゴ」を見てしまいました。親同士のトラブルが続々と起きました。「あの人はえらそうにしている」とか、ねたみ、比較、不安、怒り、日頃は隠している様々な感情が表に現れてきました。そういう親たちを見て、私は30年間やってきたのかという絶望感をいだきました。
子どものためと言いながら、親は自分の満足や欲望で動いていました。「ああ、子どもたちの元気のなさは、ここにも原因があるのだ」とわかりました。
子どもの成長を第一の目的として、教師と親が信頼し合い、力を合わせてとりくむ。これがあって初めて、子どもは安心して学んでいくことができます。
多くの親は、トラブルを自分自身成長させていくチャンスにしていこうというふうには、なかなかなっていきませんでした。
いくら学校で私が子どもたちと向き合っていっても、親が変わらなければ、この状態は変わらないと、悟った私は学校をやめ、賢治の学校をつくり、親子の問題に正面から向き合う場としてワークショップを開いてきたわけです。
そして、親の成長も大切だけども、まず、この私が人間として成長していかなければ、その先の学校作りは見えてこないことに気づいたのです。
公立学校の問題の一つは、1年か2年で担任が代わるために、親も教師も自分にしっかり向き合わないで、次の学年へと進んでいくことです。
そうすると、親もいっぱい逃げ道を作れるわけです。「あの先生が悪かったから、うちの子はこうなんだ」という類の理由をいつも持ち出してくる。しかも、1年か2年で代わるので、親も教師にそれほどかかわらなくてもすむのです。
そういう大人たちの姿を見て、「先生だって、なんだ!」という教師への絶望が、子どもの中に広がっていると思います。
どこからどうやってこの事態を変えていくことができるのか。
そのためには、まず親や教師が、お互いに自分が責任を持っている部分を明確にしながら、一緒に子どもを育てていかねばなりません。
親も教師も、子どもたちの成長への援助を第一にし、力を合わせなければなりません。お互いに自分をごまかさないで、自分を正直に表現し、ぶつかることを恐れずにとりくまなければなりません。
親と教師がお互いに正直にぶつかるということは、容易なことではありません。しかし、自分をこわしながら、新たな自分を生み出していくことに取り組まなくては、子どもたちの希望の持てる場は作れない、ということに思い至ったのです。
(鳥山敏子:1941-2013年、公立小学校の教師として、子どものからだと心に生き生きと働きかける革新的な授業を展開、1994年「賢治の学校」を創立し自分自身を生ききるからだの創造を目指した)
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