授業とカウンセリングは共通点をもっていて授業に役立つものである
カウンセリングは個別に傾聴し、感情を扱い、やさしく受容するという理解のみにとらわれるのは正しくない。
カウンセラーは、聞き手にとどまるものではない。子どもに新しい見方や考え方を提示する。そうすることによって、子どもが自分の問題を自分で整理し、決定し、これまでの行動の仕方を修正し、新しい行動を試みていくように支援する。この過程でカウンセラーが大切にすることは、子どもの感情と思考に近づくことである。
授業とカウンセリングは基本的な共通項をもっている。どちらも、子どもの思考、感情に共感しつつ、矛盾点や理解できない面を表現し、行動変容を導くことによって、子どもの自発的な変化を支援していく活動である。
次の理由からカウンセリングが授業に役立つと指摘したい。
(1)子どもと人間的交流をもてる教師になる(カウンセリングの基本)
授業は教師と子どもの人間関係の中で成立する。一人ひとりの子どもに教師のあたたかい視線が向けられる中で、子どもは教師の言葉に耳を傾け、表現する。それを教師が敏感にキャッチする。カウンセリングの学習で体得することができる。
(2)すべての子どもにあたたかい尊敬のまなざしをする(カウンセリングの基本)
教科内容をすぐ理解できる子、理解に時間がかかる子、遊びだけが好きな子、などすべての子どもにあたたかい尊敬のまなざしをもつ。カウンセリングは全体と個人を対象としている。
(3)教師と子ども、子どもと子どもの関係性づくりをする
教師と子ども、子どもと子どもの関係性(リレーション)づくりがないと授業は成立しない。だから教師は関係性(リレーション)づくりに強くなる必要がある。人と人との出会いの体験(エンカウンター)を学ぶことで、認め合い、助け合う学級を創造することができる。
(4)子どもの感じ方や考え方を心の内面から理解するのはカウンセリングの得意とするところである
子どもが学習の中で、どこで、どうして間違えたのかを、教師は子どもの視点で理解する必要がある。子どもの感じ方や考え方を心の内面から理解する態度と技術はカウンセリングの得意とするところである。共感的理解、傾聴の技法は子どもの発言を引き出し、思考の筋道を明確化する。
(5)カウンセリングにより、教師自身の誤った自己理解を正す必要がある
自分を好きになれない教師は子どもに好意をもつことが困難である。また、教師の心の中に認めたくない感情があると、子どものある一面に対して過度に厳しくなる。教師がもし誤った自己理解をしていたなら、その影響は子どもや授業にも及ぶことになる。
(6)子どもの心の中に入り込むにはカウンセリングの対決技法を参考にする
子どもが自分の本当の気持ちや、現実に直面する問題を回避しようとし続けている場合は、カウンセリングの対決技法を参考にして、その子へのあたたかい尊敬の視線をもって、心の中に入り込んでいく必要がある。
(7)子どもの主体的行動変容を支援する
子どもが自分で目標を定め、実行し、その行動を自分で観察し、評価し変容していく。子どものこの自律的学習の過程を支援することがカウンセリングの最終の段階である。
(福島脩美:1937年埼玉県生まれ、東京学芸大学名誉教授。専門は、カウンセリング心理学、教育臨床心理学、性格心理学)
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