私は教師として、子どもを暗示にかけて育ててきたような気がする
私は、自分の教育をふり返ってみますと、中身はどうも子どもに暗示をかけて育ててきたような気がします。
「子どもはほめて育てる」ということ。特に小さい子どもたちは、やっぱりほめることによって調子に乗ってきます。例えば、全然あいさつができない子に
教師「きみもあいさつがうまくなったね」
子ども「ぼくはあいさつをしていないよ」
教師「いや、きみは目で先生にあいさつしている。今日の目は優しくてよかった」
子ども「そうぉ」
とにっこりする。
翌日また、その子に必ず声をかけるのです。子どもは「おはよう」と言うようになります。「きみはあいさつのプロだ」というようにして暗示をかける。
だから、本当ではないんだけれども、「子どもを伸ばすためには時にはうそも必要だ」と思います。暗示にかけることをすれば、子どもは伸びるのではないかと思うわけです。
ただし、ほめる場合、ほめるチャンスというものがある。有能な教師というのは、そういう機会を見ていて、そのチャンスをきっちりととらえる。例えば、字は汚いんだけれども、きれいなところがあったら「うん、きみ、この字はうまいよ、元々うまいんじゃないか」と言う。そういうチャンスをパッとつかまえてほめることが必要ではないか。教育技術を提案している向山先生は授業の中で技術というのは7~8%ぐらいではないか、ということを言っています。
ただ、私が気になるのは、ずっとほめられ続けてきた子どもは弱いような気がする。やっぱり教師に叩かれ伸びてきた、というのは雑草のような強さが感じられます。
多様化の時代に生きているわれわれ教師には、一つの発想に凝り固まってその面でしか子どもを見られないというのではダメだ。相反する場合でも、必要になるのではないか。ほめると叱るの二つをどのように使い分けるかということは、最も大事な問題ではないかと思います。
(有田和正:1935-2014年、筑波大学付属小学校,愛知教育大学教授、東北福祉大学教授、同特任教授を歴任した。教材づくりを中心とした授業づくりを研究し、数百の教材を開発、授業の名人といわれた)
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