よい教え方のマニュアルはない、教師に身体化されたセンスにある
教師とは、実に奥の深い仕事です。
授業の例で考えてみましょう。同じ教え方が常に通用するとはかぎりません。子どもによって、教える内容によっても「よい教え方」は異なります。
いや「よい教え方」というようなマニュアルなど、そもそも存在しないのです。むしろ、授業のよし悪しを決めるカギは、教師の一人ひとりに身体化されたセンスにあるといっても過言ではないでしょう。
子どものある表情や発言、行為の瞬間に、教師がどのようなふるまいをするかは、その教師のセンスが否応なく反映されます。
教師という仕事の難しさと醍醐味は、人が人を教えるというダイナミズムが、このような一生に一度きりの「教育的瞬間」におけるユニークな出会いに支えられているという点にあるのです。
教師のセンスというのは、やみくもにトレーニングをして身につくものではありません。
学校が「教育的瞬間」に満ちた場所であるからこそ、教師には常に自らを振り返りつつ、目の前にいる一人ひとりの子どもの姿から豊かに学びとろうとする姿勢が求められているのではないでしょうか。
なぜなら、子どもたちの学びに対する教師の想像力こそが、よりよい教育実践を創るための礎になるからです。
教師が「常に学びつづける職業」とされる理由はここにあるのです。
(鹿毛雅治:1964年横浜市生まれ、東京大学客員教授を経て、慶應義塾大学教職課程センター教授。専門は、教育心理学、特に学習意欲論、小・中学校の教師と授業研究に取り組む)
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