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教え上手な教師とは、どのようなものを持った教師か

 教え上手とはどのような人か。教え上手とは、わかりやすく、子どもに学びたいと思わせる「技術」を持ち、子どもたちを思いやるような心とユーモアを備えた「人間性」を持つ人のことです。子どもたちに自ら伸びようとする姿勢や考えを身につけさせる人のことなのです。
 教え上手な技術とは、「子どもたち自ら考えさせる」ために技術を駆使することです。それには例えば、「答えをすぐには教えず、自分の頭で考えさせる」「結論を急がず、即答を要求せず、ゆっくり考えさせる」「あえて大事なポイントを隠してヒントだけ与える」「わざとあいまいなことや間違ったことを提示して、固定観念や既成概念に揺さぶりをかける」技術のことです。
 あるいは「少なく教える」「大事なことほど教えない」「正しいことばかり教えない」そんな常識破りの指導法によって、子どもたちの学ぶ意欲を引き出し、その考えを深く豊かに耕す技術のことです。
 そうした技術を私は、子どもたちの理解力、思考力、判断力を育て伸ばすための重要な柱としてきました。ひとことで言えば、それは「教え惜しむ」技術であり、教えることの要諦は「いかに教えないか」にある、ともいえます。
 教師はたくさん教えるほど子どもは育つと思って、たくさんの知識を詰め込もうとします。熱心な教師ほど、かゆいところに手を届かせるようにして、懇切ていねいに教え込む。しかし、教えることは恐ろしい行為で、教えすぎは子どもの考える主体性を奪い、かえって浅く少なくしか伝わらないものです。即効性のある答えをすぐに教えるのではなく、その答えを自分でみちびき出せる考える力を養うことが大切なのです。答えばかりをたくさん教わっている子どもに、問う力を備えることはできません。
 ですから、「教え惜しみ」は教え上手の重要な条件であり、百ます計算のように答えをすぐに求めない、答えをすぐに与えない。それよりも考えるプロセスをたっぷりとる。そこに子どもを教え、育てるときの重点はあるべきです。
 人間の問う力、考える力は「はてな?」を起点にして生みだされるものです。つまり、「なぜだろう」「どうしてだろう」という疑問や知的好奇心。それが学ぶこと、わかることへの最初の一歩になるのです。「はてな?」がないと考えることは一歩も前へ進みません。したがって、その「はてな?」をできるだけたくさん、多様に発生させること。それが「教える」ということの大切な役割です。そのため、とりわけ私が重視したのは「教材」と「発問」のふたつです。
 教材に何を使うかによって教える技術のうまい、へたが分かれてしまうといっても過言ではありません。教えるということは、教材を手段にして子どもの学習意欲を引き出し「見えない」ものを「見える」ようにする営みのことです。借り物の教材ではなく、例えば、90度に曲がったサトウキビなど、おもしろい教材を探し出してきては、子どもたちに「はてな?」を発見させるためのヒントを与える。私の授業はそのくり返しであったといえます。
 発問は、子どもの思考に波紋を広げる鋭い「問いかけ」のことです。子どもの考えを揺さぶったり、惑わせたり、迷わせたりすることで、その思考を絞り込んだり、広げたり、深化させたりしていく、そのためのきっかけとなる刺激的な問いかけのことです。子どもの思い込みを突き崩す鋭い発問で、例えば国語の授業で「ごんぎつねは何歳ぐらいだろう?」といった、子どものなかに思いもしなかった、いくつもの新しい「はてな?」を生み出して、「考える沼」のなかに引き入れていく。その意味で「何を教えるかは何を問うかにかかってくる」のです。
 むろん技術は人間性の下支えがあって有効になるものです。とくに教えることにおいてはその傾向が顕著です。教え上手というのは技術を使っているときでも、技術に見せません。例えば、黒板にわざと日づけを間違えて書く。そういうときでも、すぐれた教師は「つい間違ってしまった」かのように、人間性から生じたミスのように見せます。子どもを笑わせても、それが人間性からにじみ出たユーモアのように思わせます。
 いいかえれば、教える技術には人間が如実に反映します。ごまかしがききません。人間性が浅い人には薄っぺらな教え方しかできないのです。その恐ろしさを私は何度も教育の現場で思い知らされてきました。それゆえ、自分なりの技術をしっかりと構築する必要があったのです。
(
有田和正:19352014年、筑波大学付属小学校,愛知教育大学教授、東北福祉大学教授、同特任教授を歴任した。教材づくりを中心とした授業づくりを研究し、数百の教材を開発、授業の名人といわれた)

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