荒れ問題にかかわって気づいたのは、教師が教師だというだけでは機能しなくなってきたという事実である
私は、学級崩壊を経験した何人かの教師から話を聞く機会があった。彼らの多くは長年にわたってうまくやってきた教師だった。単に指導力のない教師とかたづけるわけにはいかない。荒れの問題を解くカギのひとつは、まさにこの点にある。教師個人の資質の問題というよりは、今の学校に現われてきた沈殿物のようなものが問題になってきたと考えるのが妥当なのではないか。今まで学校の中で当たりまえとされてきた教師のやり方が、現在の子どもたちに通用しなくなってきた、ということを示している。見直しが求められているのである。
学校教育は、教師と子どもの人間関係の上に成り立っている。以前は、教師と子どもの関係はおおむね安定していて、子どもたちは教師に素直に従い、特別な努力をしなくても教師は指導することができた。今、その関係が崩れたのである。
学級は担任と子どもたちとで作っていく社会であるから、担任と子どもたちは相互に理解し合う人間関係が不可欠である。担任の言うことに子どもたちが耳を傾けるのは、自分たちが教師に理解され、受け入れられていると感じているからなのである。
教師が子どもたちに受け入れられてないと、指示が通りにくくなり、指導力を発揮するために、ますます一方的に大声で指示しがちになる。そして、子どもたちの反発の対象となる。
荒れた学級を立て直した一つの事例を示そう。前年度、荒れた学級を担任したA教師は、一学期の半ばで担任と子どもたちは良好な関係となった。どのようにして立て直したのか調査した。A教師の学級経営の方法や子どもとの関係づくりを、子どもや担任から聞き取り調査をし、その特徴を調べた。その結果、つぎのようなことがわかった。
子どもたちは、A担任の良いところとして「明るく楽しく、先生らしくないので近づきやすい。子どもたち一人ひとりを常に気にかけてくれていて、やりたいことをできるだけかなえてくれる。授業がていねいでわかりやすく、子どもたちを楽しませる工夫をしてくれる。叱るときは厳しいが理由をきちん説明してくれるので納得でき、ときどき大目に見てくれることがあるのでほっとする」と指摘している。
A担任が心がけていることは「教師ぶらず、常に子どもとのコミュニケーションを大切にしている。できるだけ、子どもたちの希望をかなえるようにする。トラブルの処理にあたっては、子どもたちが納得できるようにする。言うべきことはきちんと伝えるが、甘さやいい加減さがある」などである。
授業観察からは「子どもたちの言葉に耳を傾け、ある程度の自由を許容するようにしている。的確で分かりやすい指示や説明をしている。子どもの失敗や誤答をその子が傷つかないように学級全体への指示に生かす工夫が見られる。叱るときは核心をついていて、あっさりしている。子どもの反抗的な言動には、いっそうの反発を買わないように、さらりとかわす姿勢が認められる」などが明らかになった。
荒れ問題にかかわって気づいたのは、教師が教師だというだけでは機能しなくなってきたという事実である。教師は子どもたちとの間に、手作りで「教師と子どもの関係」をつくりださなくてはならない。子どもたちの気持ちを理解し、自分の考えを伝え、子どもたちが満足できる授業、子どもたちが納得できる対応を心がけなければならない。それには教師個人だけでなく、学年など教師とチームワークをとる。子どもたちの親たちとの協力も大切である。
(松村茂治:1948年生まれ、東京学芸大学教授を経て明治学院大学教授。専門は教育心理学、学校心理学)
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