兵庫県山口小学校の10年間の実践で高い学力を子どもたちはつけていった
山口小学校の実践はNHKの番組で全国に伝えられると、大きな反響がありました。読み書き計算の徹底反復の実践だけをやっているわけではありません。その基礎学力を生かして、仲間づくりや体づくり、生活づくりなどと組み合わせながら、学ぶことが楽しい学校をめざしてきました。子どもたちには笑顔があります。学校と家庭が協力しあうことで育てられてきたのです。
子どもたちに基礎学力がないと、課題をお互いに発表しても理解できないのです。それで私たちは基礎学力が大事だということを感じるようになりました。実践が進み子どもたちに学力がついてくると、子どもたちが落ち着いてきました。問題行動で教師が悩まされることはありません。しっかり学習させているにもかかわらず、八割の子どもが学校が楽しいと答えています。保護者も95%が山口小学校に満足していると答えています。また卒業生の中から難関と言われる国公立大学に続々と合格したのです。
読み書き計算の学習は、子どもにとってしんどいものです。しかし、友だちが励まし合う学校では、一緒に学んでいるという共同意識に支えられ、つらいハードルも乗り越えられます。苦しい学習も喜びに変っていきます。そして成長が自覚されることによって自信もわいてきます。競争がゲーム、楽しさとなり、真のライバルは昨日までの自分なのです。
すべての教科で学習するには、読み書き計算の能力が必要です。つきつめると言葉と数です。言葉が豊富で、数が早く正確であることが確かな学力の土台なのです。学習能力は、見聞きすることを理解する能力です。体得すると、授業がわかって面白くなります。だから、学習能力が伸びてくると、子どもも教師も授業が楽しくなってくるのです。そうすると子どもたちの学習能力が加速度的に高まっていきます。
山口小学校の「読み書き計算」の実践を紹介すると
1 読む力を育てる
読む力の指導は、音読・暗唱・読解指導です。育てるには毎日の音読練習が有効です。どんな教科も音読させることが重要です。算数などを音読して論理的な理解力をつけておくことです。音読カードを用意し宿題に出します。同じ文章を一か月音読させると子どもたちは暗唱してしまいます。暗唱が最も効果的です。音読が上手になるコツは、少しずつ全員の音読を毎日聞いてあげることです。そしてよくなるポイントを助言することが大切です。
読書指導は、朝の10分間読書、お話を聞く会があります。頭の新鮮な朝に、短時間集中的に読書をするのは効果があります。読解の指導は「一人調べ」という各個人が物語の登場人物の心情を表すことばを見つけて、自分なりの解釈を書く学習です。それを比べ合わせる「全体指導」の段階があります。読解力は一人調べと発表をくり返せば深まります。
2 書く力を育てる
漢字は読み書き同時習得で、初めて学力になります。山口小学校では、子どもたちにとって理解しやすいため熟語から漢字の意味を覚えます。連想ゲーム式に覚えると加速度的に漢字を覚えることができます。漢字は要素ごとに分け、まとめて覚えると覚えやすくなります。
漢字の習得率を上げるため、
(1)毎日必ず漢字の練習時間を作り、間違いの多かった漢字ばかりをプリントにまとめて、全部習得できるまで指導する。
(2)新出漢字の学習は教科書の進度とは別に指導する。短期間に覚え、復習に時間をとり、11月中に終了する。
(3)三学期は漢字学習の復習期間とする。
(4)年度末に、全校一斉に「漢字力試し」(各学年熟語20字)を実施し、習得率の確認をすると同時に、次年度の指導の参考とする。
(5)習得率の悪い漢字をピックアップすることで、効率的な習得率の向上を図る。
3 計算力
計算力は算数のかなめです。計算力の土台は、一桁のたし算、ひき算、かけ算です。分数や少数、わり算は、それらの組み合わせでしかありません。土台をしっかり築くと以降の学習のつまずきを防ぐことができます。そこで、簡単にきたえられるように考案された教材が「百ます計算」(岸本裕史考案)です。百ます計算は縦と横に10個ずつ、百個のますを作り、たし算やひき算、かけ算やわり算を行い、時間を計ります。中学年以上で2分以内でできると算数の計算が支障なくでき、3分になるとつまずきが目立ちます。それで2分以内を目標にします。大切なのは毎日少しずつやることによって、記録が伸びることが励みになり、自分の成長に喜びと自信を持てるようになることです。全学年で、算数の授業の最初の10分間やって計算力をつけています。
年間を通じて体育にもたいへん力を入れています。朝のジョギングや縄跳びなどをして、体が活性化した状態で学習に入れるようにしています。5月の運動会、6月の鉄棒発表会、夏の水泳、11月のマット運動会、冬のマラソンなど、知育を伸ばすためにも体育は欠かせないと考えているからです。
知育と体育の健全な発達を支えるものは生活習慣です。子どもたちの学力が伸びるためには、全力で学習するための集中力と忍耐力が必要です。私は生活習慣の乱れを直すことが、学力づくりの条件と考えアンケートを実施しました。生活習慣が乱れてくると、子どもたちは落ち着きを欠いたり、集中力がなくなり、キレたり、荒れも増えます。そのためには、学校と家庭は常に密接な連携を保っていなければなりません。そこで、食生活や生活習慣についての授業を授業参観に合わせて全校で実施しました。朝食をしっかり食べると子どもの精神の安定のためによいことがわかってきました。各家庭には、米飯の朝食を推奨したり、睡眠時間の確保とテレビの視聴時間の短縮をお願いしました。PTAの講演会では生活リズムの研究者や医者を招き、みんなで学習しました。こうして、子どもの学習を支える体と健康作りが進むことで、子どもたちの集中力と忍耐力がつちかわれていくのです。
宿題をしっかり出すようにしています。宿題は主に市販のプリントでだします。ドリルも使います。だいたい「学年」×15分~20分です。宿題の学習時間はそれほど多くはありません。なぜかというと、どの学年でも宿題を出しますから、家庭での学習習慣が早くから確立していること、学校の学習で得られた集中力が家庭でも発揮されるからです。学校での学習と家庭学習が相互的に働きあうことで、自分の学力がしっかりしたものになるということを、子どもたちはよくわかっているのです。ですから、宿題をしない子どもが少ないのです。
(陰山英男:1958年兵庫県生まれ、兵庫県公立小学校教師、広島県尾道市立小学校長(公募)、立命館小学校副校長、国の教育再生会議委員、大阪府教育委員長を歴任した。兵庫県の朝来市立山口小学校で保護者を巻き込んで、基礎学力向上のための岸本裕史が提唱した百ます計算や日常の生活を見直すチェックシートの活用などで成果を上げた)
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