精神科を受診することへの偏見と抵抗が教師にも保護者にもある
世間ではしばしば「精神科は敷居が高い」という声を耳にします。心に変調をきたしてもなかなか病院へ行こうとしない人はたくさんいます。教師の場合も、がまんしすぎてかなりこじれてから、受診するという現実があります。教師自身、心の健康問題に対して偏見を抱いています。私も診療経験を通して、そうした矛盾を実感しています。
たとえば、明らかにうつ病とみられる教師がいても、校長が「精神科を受診してはどうか」とは、なかなか口には出せない。なぜなら差別するのかという言葉が返ってくるおそれがあるからです。教職に適性もあり、まじめで熱心な教師が、がんばりすぎて精神的に疲れてしまい通院している教師であっても「精神科に通院しているなんて、とても人には言えません」と、こぼすことが少なくありません。
子どもの心の病気もさまざまな難しい問題を含んでいます。たとえば、不登校には精神病や神経病といった心の病気によって登校できなくなった場合もあります。当然、治療が必要になります。しかし、教師も保護者も心の病気という認識がなく、精神科にかかろうとせず回復できない場合があります。
典型的な例は、ADHD(注意欠陥多動性障害)です。これまで、落ち着きがない子どもがいると、教師の指導力が不足しているからだと言われてきました。しかし、これは脳の障害の問題であり、いまや薬を服用することで回復が期待できることがわかっています。そこで教師が「ADHDの疑いがあるので、精神科を受診してみてはどうですか」と勧めても、保護者からは「教師として指導力がないくせに、病気扱いするつもりか」と逆に批判される話を数多く聞きます。子どもの心の病気は細心の配慮が必要です。どこまで見守るのか、教育として介入するか、どこで医療に結びつけるのか、対応は事例ごとに適切な判断を下していかなければなりません。
(中島一憲:1956-2007年、1990年より東京都教職員互助会三楽病院勤務し部長、東京医科歯科大学教授を歴任した。精神科医師)
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