「キレやすい」子どもを「キレにくい」子にするにはどのようにすればよいか
キレやすい子どもには、コミュニケーション能力が未発達であったり、気持ちをうまく表現できないために問題行動を起す子どもや、ADHDやLDなど特定の傾向をもった子どももいます。
そこで、感情の発達過程で、自分の怒りに対する理解を深め、適切な表現の方法を教えていくことによって、暴力やいじめ等を減少させようという、「キレにくい子に成長させる」予防教育の動きがでてきたのです。
米国では、校内暴力、いじめが犯罪へと発展し、危機的な状況にあった学校を、学ぶ場としての学校へと再建するために「ゼロトレランス」(暴力廃絶)の方針が出されました。
米国はすでに暴力予防の教育が年間のカリキュラムに組み込まれています。小学校から高校に、さまざまな「アンガーマネージメント(怒りに正しく対処し、健全な人間関係をつくり上げる知識と技術)・プログラム」が展開されています。
日本においても、心の教育が重視され、道徳や総合学習の中で、いじめや暴力を予防する教育が展開され始めています。
キレにくい子どもを育てるためには、怒りのメカニズムを子どもに伝え、「暴力・暴言・いじめ」などの誤った怒りの表現を予防することが大切です。同時に、健全な「怒りの表現方法」も教えていく必要があります。
予防(啓発)教育の内容は、感情教育、客観的思考、問題解決能力を育成することです。年間の授業計画に組み込まれて、国語・道徳・総合学習・HR等を用いて展開することができます。展開方法は、自己理解から始めて、他者理解、相互理解へと進めます。グループで体験的に行うと特に効果的です。
グループで体験的に行うと効果があがりやすいのは、グループの力が働くからです。自分の苦手なところを他の生徒が補ってくれたり、活動に参加せずに見ているだけでも多くの体験を学ぶことができます。自己理解、他者理解が促進されやすくなり、共感性も生じやすくなります。
また、具体的な体験でイメージや理解がしやすくなり、相互理解が促進され、活動中に「行動のお手本」が見られるため、活動の途中で自分の行動変容が促されることもあります。
キレにくい子どもを育てる授業は、段階をふんで行う必要があります。たとえば、「共感すること」を学習する活動であれば、まず、子どもが「自分の感情が何か」を理解できて、「相手の感情が何か」を感じられる力を備えていなくてはなりません。
キレにくい子どもを育てる授業の学習計画の立案は、
(1)自分のクラスの問題を明確化する
(2)そのために必要な活動の目的を明確にして、活動を選択し、活動を導入します
(3)活動後にフィードバックを行い「今日の活動を日常生活でどのように応用できるか」を考える活動を行う
どのワークを使って始めたらよいか、それぞれの目標をクラスの状況に照らし合わせてプランを立ててみてください。また、一つを行った後でまだ難しいようであれば、一つ前の活動に戻ってみてください。
キレにくい子どもを育てるグループ活動の目的は、子どもが自分でコントロールすることができるようにすることです。ですから、活動の主役はあくまで子どもです。指導者は安全に活動ができるための環境を保障すること、および活動が順調に進むための援助をします。
したがって、導入部分は楽しく活動を進めやすい雰囲気づくりを行いますが、子どもたちが自発的に活動を始めたら、基本的には子どもにまかせます。
このとき、グループを支配しようとしている子どもがいれば、仲介して適切なリーダーシップを示し、乗り遅れている子どもがいれば、いっしょに活動に参加して励ましてください。
「自分が何を感じているのか」を認識するためには、自分の感情の質と量を表す「感情を表すことば」や、その概念を理解することから始めます。
朝の会・終わりの会でも、道徳や総合の時間を活用することもできます。また、状況や気持ちを理解する力を育成するために、国語や英語の時間を当てることもできます。
実施するときは、子どもの発達状況によって、以下のように手法を変えると、理解されやすくなります。
(1)幼児から小学校低学年
目の前で具体的に体験(見る)する。ビデオや場面の写真、絵などで視覚的・具体的に示す。
(2)小学校中学年から高学年
最近の自分の体験を思い出す
(3)中学生
ことばや場面に対するイメージや概念を用いる
(4)高校生
論理的に定義づけたり意味づけたりする
自分の感情理解のためのワークの例としては
(1)お顔の体操
朝の会・終わりの会で、朝の体操気分で、快・不快の一つひとつの表情を皆でやってみます。教師が「はい、これと同じ表情をしてみましょう。どんな気持ちですか?」と表情と感情のネーミングを促します。
(2)3分間スピーチ
話し手が前にでて、ある感情を表す表情をしてみせる。それがどんな感情を表しているかを当ててもらう。そして、その感情になったときの、エピソードを話してもらう。
(本田恵子:早稲田大学教授。元中学高等学校教諭、コロンビア大学で博士号取得後、ニューヨーク市でガイダンス・クライシスカウンセラーとして勤務。包括的スクールカウンセリング研究会代表。危機介入・ADHD、LD児への対応、アンガーマネージメントを学校と連携して実践。臨床心理士・学校心理士・特別教育支援士SV)
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