国語科:話し合いをさせるための準備と方法
国語の授業で話し合いをやらせない先生なんていません。でも、話し合いそのものを教えるということがないと思います。話し合いの前にまず教材を準備します。私は、その教材をもとにして子どもたちに準備時間というのを持ちます。言いたくてしょうがないということが子どもたちの胸の中にあるようにします。
たとえばテーマとして「少年駅伝夫」(鈴木三重吉)という少年が主人公の物語を覚えていますね。一枚の紙におさまるほど短いのです。話し合いに慣れていない子どもには、私は一目で全体が見える分量の物語を使うのです。
子どもたちは、その少年がどういう人であるかを20字以内のことばで表現して、副題をつけることにします。
そのために、私がもう一枚の紙を配布します。その紙に一クラス人数分の副題の案が書いてあります。それを子どもたち一人ひとりが研究するんです。どの表現がこの少年をよく表しているか考えて、自分が推薦する副題の案を決め、推薦する理由をしっかり持つようにします。そこまでが子どもたち個人の準備期間です。そうやって全員が言いたいことを持つわけです。
話すことがなくて何も言えない子どもがいてはかわいそうです。教師が、ほかに、ほかに、なんて言いながら、話し合いをさせて、ただ聞いている教師なんておかしいと思いますね。そこまで準備してから、私は話し合いにはいるんです。
話し合いは次の順に進めます
(1)副題案の中に、それは事実と違ってくる、というようなのがないか。あったらそれは省く。
(2)ことば、言い方があんまり平凡、副題として、人を引きつけるところがないというのを省く。
(3)いいことば、引きつけることばはないか、という観点で、目立つもの、つまり表現のすぐれているものを選ぶ。
(4)あとは、それをつめていって特にいいものを、三から五くらいにする。一つにまで「つめ」なくてもいいんです。
「つめる」とは推薦しあうことです。いいところをとりあげて、どんなふうにいいか話し合うことです。どの表現がいいかなんていうことを、多数決できめてしまうのはまずいと思う。テーマの何が良いかというと、子どもたちは発言がしやすい。線が太くてね。
教師が子どもの数ほど意見を持てるということも大事ね。必ず教師自身が、みんなの中に入って賛成したり反対したり、その話し合いに入れるようにする。
私は教室でしっかり聞いていますね。そして誰かが発言につかえたときなどに、その子を困らせないで、続くことばをちょっと私が言う。それで後が続くものです。そうしたら、私はすっと消える。またつかえたら、また入ります。こう言えばいいと思うことをすっと影のように入って知らぬ顔して実演する。
話し合いは事前に私が一人でやってみて、たとえば夏子さんがここでなんと言うかわからないぞ、というところが出てきたら、前もって考えておかないといけない。話し合いを指導するということは容易ならぬことですよ。
(大村 はま:1906-2005年、長野県で高等女学校、戦後は東京都公立中学校で73歳まで教え、新聞・雑誌の記事を元にした授業や生徒の実力と課題に応じた「単元学習法」を確立した。ペスタロッチー賞、日本教育連合会賞を受賞。退職後も「大村はま国語教室の会」を結成し、日本の国語科教育の向上に勤めた)
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