やさしくて、しんの強い子どもを育てるにはどのようにすればよいか
私は、長い間教師生活をしておりまして、いろいろな子どもに接してきております。心配なのはいじめです。子どもは本来、すなおでやさしい心を持っているわけですけれども、子どもたちの心にこんなひずみができてしまった。
私の求めている理想の子ども像は「やさしくて、しんの強い子ども」「心やさしく、りりしい子ども」「あたたかくて、たくましい子ども」です。
そういう子どもに育てるには、どうしたらいいか。それには昔からいわれている言葉で「愛は愛を育て、憎しみは憎しみを育てる」という言葉があります。教師が子どもに愛情をかければ、子どもは教師を尊敬し、教師と子どもとが信頼関係によってあたたかく結ばれていくと思います。
幼児期は自立させる時期です。基本的な生活習慣をきちんと身につけるしつけをする。反抗する時期でもあります。だめなことはダメとしつけることによって反抗期が順調に育つわけです。子どものいうなりになると、自立できない子どもになってしまう。同時に母親の愛情、肌のふれあいを求めています。それをだいじにしないと、親離れができないのです。
私も小さいときから、母や学校の先生から童話などいろいろなお話を聞いて育ってきました。今、考えてみると、それが私の人間形成、とくにモラルの原形になっているように思います。人間いかに生きるべきかということを、犬やうさぎやつるの言葉で、子どもたちにしみこませるという、そういう哲学がふくまれているということを忘れないようにしてほしい。しかも、人が語る話を聞くには、頭の中で子どもは空想しなければならない。これがよいのです。これがいろんなものを考える力のもとになります。
もしも、子どもがわるいことをしたならば、「なぜこんなことをしたのか」と人間としてぶちまけて、激しく怒ってください。父親のごとく激しく怒ったならば、あとで母のごとく「わかったでしょう。これから気をつけてね」とやさしく言うようにします。こういうふうに一人二役をしていただかなきゃなりません。そうすることで精神的な自立ができるのです。
子どもがわるいことをしたならば怒る。そのあとでやさしくする。すぐその場ではおそらく感情が高ぶっているからできないと思います。少し時間をおいたほうがいい。ご飯やおやつとか何か食べたあとがいいようです。そのとき人間は心がなごむわけですから。
くどく叱るのは、子どものためよりも自己満足のためじゃないかと思う面もあります。子どもの中には、人前で怒られると非常にショックを受ける性質の子どももいます。そういう子どもは、ひそかに呼んで注意します。
このように、親の場合も教師の場合も同じように、きびしさの後のやさしさの調和が大事なのです。
子どもは友だちとの関係でも育っていきます。人間としての交流で友情が育つのです。自然な遊びの中から笑ったり、泣いたり、怒ったり、けんかをしながら社会性が育ち、自分たちはどうしなければならないかということが、自然にわかり、身についていくのだと思います。
こういう点からも子どもの遊びを大事にしてほしい。その遊びをしなくなると、連帯する心が育たない。また、子どもは精力がありあまっている。それが発散できないと、いろんな問題をおこすわけです。うーんと遊ばせることです。中学のクラブ活動の重要性はこういうところにもあるわけです。
宮沢賢治は非常に思いやりのある人だったそうです。友だちと遊んでいたとき、荷車が近づいてきて友だちは手をひかれてしまった。賢治は血が出ているのを見て、友だちの指を思わずわが口の中に入れてしまった。私はこんなやさしい思いやりを持った子どもになってもらいたいと思うんです。人の悲しみはわが悲しみ、人の喜びはわが喜び、ということがわかるようになると、それが、本当のやさしさ、本当の強さへと発展していくと信じるわけでございます。
(金沢嘉市:1908-1986年、愛知県生まれ、東京都公立小学校校長、教育評論家、子ども文化研究所長を務めた)
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