モンスター・ペアレントの実態と具体的な対応策はあるのか
私は教育現場にいた10年間で様々なモンスターと呼ばれる親たちを見てきた。包丁を持って乗り込んでくる親とも対応したし、「てめぇら下っ端じゃ話にならねぇ。教育長を連れて来い」と校長室で怒鳴り散らす親とも出会った。給食費を滞納している親がベンツで来校する姿も。遠足についてくる親も実際に知っている。その姿はまさに異様。言動はとっくに許容範囲を超えている。まともな神経からすれば、とうてい出るはずもない言葉が口に出る。気ままでわがまま、しかも状況を省みない言動によって、教師が困惑し、疲れ果ててしまう。
私がこれまで見聞きした経験でいうと、モンスターは大きく次の四つのタイプに分かれる。
(1)クレーマー型
親が自らの利益や権利を主張してやまないタイプだ。「学校で子どもの面倒を見てもらっている」のではなく「学校に子どもを行かせてやっている」というスタンスだ。重箱の隅をつつくがごとく、日々の授業や行事はもちろん、学校の制度、学校周辺の環境など、学校が関係する細部や学校が感知しないことについても言及される。学校は社会の苦情窓口として捉えられているのではと思えるほどだ。
例えば、「子どもが休んだ分、給食費を返して」。「給食っておいしくないから、お金を払う気になれない」。「授業中、おしゃべりしていたからといって担任が子どもを叱るなんて、人間ができていない証拠、担任を代えてください」。「転校してから算数の成績が伸びない、ウチの子は前の学校の教科書がいいといっているので教科書を変えてください」。
(2)わが子中心型
何をするにも、わが子が中心でなければ気がすまないタイプだ。「ウチの子がよければそれでいい」という発想だ。こどもをペット化し溺愛するあまり、状況がまったく目に入らず、とっぴとしか思えない要求をする。親の思いを子どもに押しつけ、コミュニケーションは常に一方的で、そのため親子としての関係も不安定であることが多い。教師に対する要求もエスカレートし、もっとも扱いが難しいタイプだ。
例えば、「浦島太郎の劇でウチの子がカメの役になるって泣いていた。ウチの子にも浦島役を」。
(3)すべて学校に任せる型
学校をサービス産業と捉えている親は、教師にサービスの提供を要求する。税金を払っているんだから、当然だというわけだ。面倒なこと、やっかいなことはすべて学校に任せる無責任型だ。一度いいなりになると、ズルズルといわれるがままに使われることになるから要注意だ。危ないと思ったら、距離をとってつきあうこと。子どもが問題を起こすと「すべて学校が悪い」と片付けようとする。
例えば、「次の日曜日、大掃除を予定しているんだけど、手伝っていただけません。主人は体が弱いものですから」。担任「毎日のように遅刻です。何とかなりませんか」親「ウチは学校から遠くて徒歩で15分もかかります。体が弱いので毎朝迎えに来ていただきたいんですが」
(4)空気が読めない型
常識やモラルなど、どこ吹く風のごとく、自分たちがよければ、それでよいタイプだ。自分の欲望を満たすためには、他者との関係などまったく意に介さない。
例えば、「ウチの子は英語が得意で、将来は米国で働きたいといっています。低血圧で朝イチの授業は調子がでないので、英語の授業を全部、三時限以降にしていただきたいんです」。「大切な知人の子どもの結婚式でウチの子の顔を見たいと言っておりますので、遠足を延期していただきたいんですが」
モンスターたちの行動の特徴は、不思議なくらいに、自らの言動についての自覚がないことだ。「自分は正しい、ゆえに教師は間違っている」と思い込んでいるのである。
私たち教師は、毎日のようにモンスター・ペアレントたちと接している。しかし、手だての講じようがないのである。多くの教師たちは、自らの職域と、フツーの親や子どもを守るために、対峙しているのである。私も何年か前までは「人間だと思うから怖い。毛色の変わった新種の動物だと思え」と、自分にいい聞かせて、話し合う場をつくっていたものである。しかし、どうにも言葉が通じないのだ。
とくに手ごわいモンスターに対応するには、
(1)相手に、好きにしゃべらせる。そうして怒りを発散させると、比較的穏やかになる。
(2)相手にしゃべらせ、自分の意見は言わないようにする。
(3)とにかく相手の言葉に同意して、新しい話題を会話に持ち込まない。
(4)ころあいを見て、こどもをほめて相手を納得させる。
(5)「今日は貴重なご意見をありがとうございました」と伝える。
(6)さりげなく終了する。それでも話が長引くときは、他の教師に携帯を鳴らしてもらい、緊急の要件が入ったと伝える。
といった対応も考えられる。
現実問題として、モンスターたちは教師や学校を機能停止寸前の状態に陥らせる。いかにして行動に歯止めをかければいいのか。私はそのことに対して、具体的な解決策を持ち得るはずがない。
せめて、具体策を示せと言われれば、こう答えたい。笑い飛ばせと。モンスターは最高に笑える素材である。むきになって取り押さえよう、改心させようとするよりも、その愚かさ・おかしさを笑ってやることで、自分自身にモンスターの醜さを自覚させるよりしかたないのではないか。そして、こちらもいい意味で笑って受けとめる余裕を持つことで、彼らとの関係を良好に保てるのではないだろうか。
(上田小次郎:高校教師、教育ライター)
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