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怒鳴り込まれたら勝ちと思え

 私はよく、「カウンセラーをしていて怒鳴り込まれたら勝ちと思え」と言っています。怒鳴り込みに来られたら、じつはこっちの勝ちなのです。
 どうしたらいいと思いますか。そういうときは、一生懸命、話を聞いたらいいのです。なかでも一番大事なのは「腰をすえて聞く」ということです。相手は怒りに来ているのですから、どうしても話が堂々巡りになる。
 ところが、相手の言い分をじっくりしっかり聞くということをこちらがやると、相手はもともとこころの底のほうでは自分はおかしいと思っているわけですから、ワーッと言っているうちに、だんだんわかってくる。そういう人は多いのではないでしょうか。
 相手がいかに怒っていても、どういう状態であっても、そこにちゃんとした土台をもった関係ができるということが、すごく大事なことなのです。カウンセラーというのは、人間関係や、関係性というものについての専門家であるといっていいのではないかと私は思っています。
 ある教育長さんから聞いて私はびっくりしたのですが、ある高校で援助交際をしている子がいることがわかりました。その子は担任の先生からすごく叱られて、泣いて家に帰りました。
 すると、その子の母親が校長室に怒鳴り込んできて「うちの子が入学したときに、校長先生は、一人ひとりが自分の個性を大事にしてくださいと言われたでしょ。うちの子はその通りにやっているのです。頭のよい子は学力で勝負しているでしょうが、うちの子は美貌で勝負しているのです。どこが悪いのですか」と言われた。
 その校長先生は素晴らしい人で、そのお母さんに「ああ、そこまで個人というものを大事して、子どもさんのことを考えておられるのですね」と言ってお母さんの言うことを聞いておられた。
 カンカンになって怒っていたお母さんが、そのうちに「校長先生、ほんとにうちの子を躾けるにはどうしらいいのでしょうか?」と、ころっと変わってきたそうです。本当はそのお母さんも、どうしたらいいのかと困っていたのです。困っているのだけれど、よくわからないから腹が立つのですね。
 自分の言っていることがおかしいというのは、こころの底ではわかっているのです。そこでじっくり話を聞いてみたら、そこに関係ができる。これがわれわれカウンセラーにとって非常に大事なことではないかと思います。
 日本人はこれまで、物がないためにみんなで分け合って生活してきた。寒くても暖かい場所は一つしかないので、そこに集まって生活せざるをえないとか、なんとなく、みんなが一体感のある関係をもって生きていくようなシステムがありました。日本的な人間関係を意識してみんながなんとなくつながっていました。
 ところが、今、そのシステムが急に変化して、日本人の生き方が根本的に変わってきたのです。家のしがらみが嫌になった。みんなが関係を切るほうに一生懸命になり、個人主義が利己主義になってしまった。「これからどう生きていくのか」というものすごく難しい問題を、今の日本人が背負っているのです。
 人間関係が急にギスギスしてきて、関係性がどこにもなくなってしまい、ぽんと孤独になるような人が出てきます。そういう苦労をしている一人なのだから、わけのわからない人とかいうのではなく、「絶対に役にたつのだ。私の前に来たこの人の人生に、意味のある役に立つことをする。そのために自分はここにいるのだ」という強い信念をもち、この人にどういう援助ができるのか、ということをじっくり考えていくと、最後には「ああ、やっぱり自分の家をなんとかしなければ」というふうに思ってくれると思うのです。
 意識して家族関係を維持しようという自覚や意識が足りなくて、本当は家庭教育でやるべきことを学校までもちこんできていることが多いのではないでしょうか。今の学校でたいへんなのは、家庭教育でやるべきことを学校でもやらねばならないということです。
(
河合隼雄:1928- 2007年、臨床心理学者。京都大学名誉教授、国際日本文化研究センター名誉教授。日本における分析心理学の普及・実践に貢献し、箱庭療法を日本へ初めて導入した)

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