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人の心などわかるはずがない、簡単に決めつけず、未来の可能性に注目すること

 臨床心理学を専門にしていると「他人の心がすぐわかるのではないか」とよく言われる。しかし、予想とは反対に、私は人の心などわかるはずがないと思っている。人の心がいかにわからないかということに確信を持って知っているところが専門家の特徴である。
 一般の人は他人の顔つきを見るだけで「悪い人」とか「やさしそうな人」とわかったように思う。専門家はやさしそうに見える人でも「恐ろしいところがあるかも知れない」と思う。怖い顔つきの人に会っても「あんがいやさしい人かも知れない」と思っている。
 要するに、簡単に判断を下さず「人の心というものはどんな動きをするか、わかるはずがない」という態度で他人に接しているのである。
 たとえば、我々カウンセラーのところには、札つきの非行少年と呼ばれる子が連れて来られるときがある。親も先生も立ち直らせることに努力してきたが、みな裏切られてしまった。だれもが見離し、我々のところに連れて来られる。
 専門家に期待されることは、この子や親の心を分析したり、探りを入れたりして、非行の原因を明らかにして、どうすればよいかという対策を考え出すということである。ところが、ほんとうの専門家はそんなことをしないのである。
 一番大切なことは、この少年を取り巻くすべての人が、この子に回復不能な非行少年というレッテルをはっているとき、「果してそうだろうか」という気持ちを持って、悪い少年ときめてかからないことなのである。
 そんなつもりで、少年に会ってみると、あんがい素直に話をしてくれる。涙を流しながら、実は母親が怖い人で、叱られてばかりだったと言う。これを聞いて「母親が原因だ」とすぐに決めつけてしまう人は素人である。
 すぐに母親が怖い人、母親が原因などと即断できるはずはない。我々は母親に会うときも、簡単にきめつけられたものではないという態度で会う。そうすると、それまで見えなかったものが見えてくるし、思いもよらなかったことが生じてくるのである。ふと幼いころに母にやさしくして貰ったことを思い出すときもある。
 もちろん話はそれほど簡単ではなく、上がったり下ったりしながら変化していくのであるが、ここで一番大切なことは、我々がこの少年の心をすぐに判断したり、分析したりするのではなく、それが「これから、どうなるのだろう」と未来の可能性の方に注目して会い続けることなのである。
 即断せずに期待しながら見ていることによって、今までわからなかった可能性が明らかになり、人間が変化してゆくことは素晴らしいことである。しかし、これは随分と心のエネルギーのいることで、簡単にできることではない。
 むしろ「わかった」と思って決めつけてしまうほうが、よほど楽なのである。この子の問題は母親が原因だとか、札つきの非行少年だから更生不可能だ、などと決めてしまうと、自分の責任が軽くなって、誰かを非難するだけで、ものごとが片づいたような錯覚を起こしてしまう。
 心の処方箋は、現状を分析し、原因を究明して、その対策としてそれが出てくるのではなく、むしろ、未知の可能性の方に注目し、そこから生じてくるものを尊重しているうちに、おのずから処方箋も生まれてくるのである。
(
河合隼雄:1928- 2007年、臨床心理学者。京都大学名誉教授、国際日本文化研究センター名誉教授。日本における分析心理学の普及・実践に貢献し、箱庭療法を日本へ初めて導入した)

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