「この子さえいてくれなければ」と考えた子どもを「この子がいてくれるおかげで」と位置づけたときから教育は始まる
私は、教師になってからもなかなか子どもを「かわいい」と思えませんでした。「かわいい」と「憎い」のどちらに近いかというと「憎い」方に近い、そういう私でした。一番適切なことばは何だろうかと考えてみると「ずいぶんやっかいな奴だ」ということになるような気がしたものです。
子どもが「やっかいだ」というのは、子どもが生きているからである。生きているから、こちらの思うようにはなってくれないのであって「それはたいへん結構なことである」とわからせてもらったのはずっと後のことでした。
生きているものは、みんな伸びたがっているし、花をつけたがっているし、実を結びたがっているとわからせてもらったのは、またその後のことでした。
そして、生きているのではなくてどうやら生かされているようだぞ、と分からせてもらったのはさらに後のことでした。
どす黒い、いやな荷物を子どもはすでにいくつもいくつも背負っているけれども、それなりに光を求め、うるおいを求め、安らぎを求めずにはおれないように、生かされているようだぞ、と分からせてもらったのです。
「この子さえいてくれなければ」と考えた子どもを「この子がいてくれるおかげで」と位置づけたときから教育は始まります。いくらふりまわされても、信じることのできるものは子どもだけです。
生きているものは、光っている。どの子も子どもは星。みんなそれぞれが、それぞれの光をいただいてまばたきしている。
子どもという、いのちの袋の中には、いろんな宝物が入っている。その宝物は、子ども自身さえ知らずにいる。それを教師が読み取るものだ。ねうちというものは、こちらが発見するものだ。すばらしいものの中にいても、意味が読みとれず、ねうちが発見できないなら、瓦礫の中にいるようなものだ。
子どもから学ぼう。子どもの感動に学ぼう。子どもの胸の中の「ドキドキ」をキャッチする心を持とう。
子どもがしていることで、子どもはものを言っている。私たちは「ことば」に頼り過ぎていないか。子どもが「体でものを言う」「生き方でものを言う」というのが、ほんとうの「ことば」であろう。
Aちゃんは、ものは言わない。しかし、その動作の一つ一つは美しいことばだ。
暴力も、あれは子どものことばだ。大人の目から見ると、困ったことばかりしている子どもでも、なぜそういうことをせずにおれないか、というそのわけを、伝えたがっているのだ。「非行少年」というのは、ほんとうにわかってくれる人にめぐりあえないで迷っている「不幸少年」といえる。
人間にくずはない。人生にむだはない。子どもは抵抗をほしがっている。反抗してみて、子どもは大きさに目覚める。子どもの中でも、早く引き抜いてしまわなければいけない「雑草」の方が、私たちが育てようとしている「作物」よりも、相当、力が旺盛だ。
子どもを大切にするということは、子どものわがままや衝動をのさばらせることではありません。本来の生き生きしたものを客観性のあるものにしてやること。個の尊厳を守るということと、「エゴイズム」を許容することとは違う。
教育という仕事は、子どもを自分の脚で歩けるようにしてやることだ。人間は頭のよしあしの違いや、体力の違いなどよりも「志」のあるなしが基本である。「ぼくの十年先を見ていてください。」ということにならないと、人間はほんとうの人間になれない。志が確立してはじめて、体力も能力もその本来の光を放ちはじめる。志があいまいなものである間は、その人間に転換を与えるものにはならない。
志が確立して体力も能力も光を放ちはじめる。志を立てるということは、生活現実に密着した決断である。それは、生き方、何を目ざしてどのように生きるかという「現実との取り組み方」が問題となる。志を立てるのに大きな教育力になるのは、親や教師の現実への取り組み方、生き方である。
(東井義雄:1912-1991年、 兵庫県生まれ、小・中学校長。ペスタロッチ賞を受賞。生活の中から問題を解決していく学力を育てた「村を育てる学力」が大きな反響を呼ぶ。生活綴り方教育の代表的な実践家)
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