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子どもたちは自立心と友だちをつくり助け合うことの喜びと大切さに気づいてほしい

 私は1944年に軍人としてフィリピンに着任し、終戦(1945)後も潜伏していたフィリピンのルバング島から1974年、53歳で日本に帰国した。日本はすっかり変貌して知らない国のようだった。
 どんな仕事をしてよいかわからずにいたとき、ブラジルに移住していた兄から「牧場をやらないか」と勧められた。ルバング島30年の体験で、熱帯の風土や気候は肌で知っている。自然と牛が相手なら、人間関係に悩むこともないだろうと考えてブラジル移住を決めた。
 簡素な木造の家には電気も通っていなかったが、寝る間も惜しんでブルドーザーを運転し、ジャングルを開拓した。現在、私の牧場は牛を1800頭を飼育している。
 牧場経営が軌道に乗ってきたとき、日本の少年犯罪が多発していることを新聞で知り「日本の子どもたちは追いつめられている。このままでは日本がダメになる」と考えた。ブラジルの牧場経営は私がつきっきりでいる必要はなかったので、1984年に日本に帰り、富士山麓で子どもたちのキャンプ場を開いた。
 私は子どものとき、親に反抗し、困らせてばかりいた。私に子どもを指導する資格があるとは思えないが、自然のなかでサバイバル技術と知恵なら子どもに授けられる。この自然塾での子どもの指導は私の人生の最後の仕事となった。
 キャンプは小学三年生から中学生まで約80人。三泊四日と六泊七日のコースがある。一人で生き抜くつらさ、困難、寂しさ、友だちをつくり助け合うことの喜びと大切さに気づいてもらうことが目的だ。
 キャンプで火をおこし、森にある道具だけを使った牛肉の燻製づくり、ナイフやロープの使い方、北斗七星やカシオペアの位置から時間を計る方法などを教えている。
 もちろん、どのグループの指導も順調にはいかない。年長の子が年少の子の面倒をみようとしなかったり、衣服が汚れるから地べたに座れない子もいる。それに、友だちをつくるのが下手だ。
 親が子どもをペットの犬をかわいがるように子どもを育てていると、子どもは増長する。犬は成犬になってからの調教は難しい。待て、座れ、お預けは子犬のときに教え込むしかない。叱られたことのない犬は、自分をその家の権力者だと勘違いし、気にくわないと飼い主を噛むようになる。
 暴力や学級崩壊は、秩序や礼節が欠落してしまった家庭の破綻の延長線上にあるのではないか。犬も人間も、しつけができていないと手に負えなくなる。怖いもの知らずがいちばん怖い。
 キャンプでは腕力や気の強さの違いがすぐわかり、強い子が弱い子をたたく心配も出てくる。私はキャンプの初めに「自分がされて嫌なことは他人にしないこと。他人をたたけば、その子は私たちスタッフに強く叱られても文句は言えないよね」と必ず話している。
 教師は人にやさしくしなさいと教えるが、強くなければ、やさしくはできない。寒い山の中で凍えている人に自分の上着をかけてやるのはやさしい行為だが、上着を脱いだ自分はさらなる寒さに耐えないといけない。「頑張れ」と言葉で励ますだけなら、見物人と同じである。
 私はジャングルで一人だったが、子どもたちには、手を伸ばせば手をつないでくれるかもしれない仲間がいる。サバイバルのいちばんの術は、自立心と仲間・友だちなのだ。
 私は今年、80歳を迎える。私の人生はすでに一回、減価償却してしまった。小学校の同級生も三分の一は戦死した。私は何かのはずみで死なずにすんだだけで、残りの人生はもうけものだと思っている。もうけは独り占めにするのではなく、子どもたちに返したい。
 松下幸之助さんは、かつて成功の秘訣を聞かれ「成功するまで続けること」と答えた。私が子どもたちに伝えたいこともこれである。
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小野田寛郎:1922年-2014年和歌山県生まれ、1944年陸軍軍人としてフィリピンのルバング島に着任し1974年に帰国した。半年後ブラジルに移住して牧場を経営。少年犯罪が多発する現代日本社会に心を痛め、健全な日本人を育成したいと、サバイバル塾『小野田自然塾』を主宰。自らの密林での経験を元に逞しい日本人を育成するとして、講演会や野営等を行った)

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