話してもわからない、理不尽な苦情を言う保護者の話の聞き方のポイントとは
教師が疲れ切ってダウンしてしまう原因に、保護者からの理不尽な苦情があります。「話せばわかるはず」と思って一生懸命に対応する教師の善意を、自分の不安や不全感から利用する保護者も出てきました。すべての責任を教師の責任にしてしまう。話を受け入れて聞いてもらえないといっさい話が通じなくなるケースもあります。保護者からの多様ないき過ぎたクレームに対応するスキルを教師が身につける必要があると思います。
多くの保護者は「話せばわかる」人ですが、「話してもわからない」人もいます。教師のせいというより、理不尽なことを言う保護者が何かの理由によって心が不安であったり、情緒不安定であることが多い。保護者に理不尽な苦情を言われたときは、相手の心が不安で攻撃するのかもしれないと思うことで、少し冷静になるかもしれません。
私も講演で「話してもわからない保護者への対応のポイントを聞きたい」と求められることが多くなっています。臨床心理士は「話を聞くこと」のプロですから、人格障害の人、対応が困難な人の話を聞く技術があり、聞き方のスキルを使って治療に関わります。教師は「話を聞くこと」のプロではありません。学校現場に出てから対応を迫られるので気の毒だと思います。
話してもわからない保護者の話の聞き方のポイントは、
(1)歓迎する
気持ちはすぐ相手に見抜かれます。歓迎するつもりで接してください。できれば「またおお会いしましたねぇ」と迎えるほうが、うまくいきます。どうしても歓迎が難しいときは、お腹のなかで「嫌やなぁ」と覚悟して迎えてください。
(2)苦情の種類によって対応を変える
「まともな要求」は誠実に対応する。「ある程度対応すべき苦情」は、ここまではできるけど、ここからはできかねることを伝えます。納得しない場合は管理職と相談する。「理不尽な苦情」は一人で対応せず管理職と相談して複数の教師が関わりましょう。
(3)初期対応が大切
最初は迎え入れる気持ちで接する。否定的な「でも」といった言葉を用いず、ていねいに聴くと、その後がうまくいくことが多い。引きぎわを待っていることもあるので、時間は一時間をめどに「○のお話が聞けました」と区切りをつける。
(4)本音は何かをさぐりながら聴く
話を真摯に聴きながら、「この人は、こんなにも強い調子で話しているが、この人の悲しみの中心は何だろう?」と、本音をいろいろ空想し、質問して尋ねたりしながら聴きます。
(5)心の中は自由に何を感じてもよい
真面目な教師ほど、「相手を悪く思ってはいけない」と自分の心を拘束しがちです。顔に出さないようにして、心の中では何を感じてもいいのです。
(6)気持ちを短く伝える
相手の言葉があまりにきついとき、自分の気持ちを短く伝えるとよい。短くがミソです。「そこまで言われると、キツイなぁ」「わからなくなってきました。よくわかる先生を呼びますね」と、いったん席を外し、ひと呼吸できる間をとるといい。
(7)目的を共有しながら聴く
対応困難な人の話は、話がそれることが多いので「今日は○についてお話に来られたのでしたね」と確認をはさみます。やりすぎると怒られることがあるので注意する。
わかりにくい話の場合、わかったふりをして終えると、後で理解がずれたとき「聞いていなかったのか!」と怒ることがあります。わかりにくい話のときは、首をひねってもいいと思います。「今日は○についてお聞きできました」「熱心に考えてくださっているのがわかりました」と、わかったことのみを最後に伝えて帰ってもらうとよい。
(8)話の限界を設定する
筋のおかしい話を全部飲むわけにはいきません。「ここまではできるが、ここからはできない」という限界を伝えていいと思います。
遅い時間の家庭訪問や電話を要求されるケースもあります。緊急でないかぎり「○時までは対応できるけれど、○時以降は対応できかねます」と言っていいと思います。
(井上麻紀: 臨床心理士。公立学校共済組合近畿中央病院メンタルヘルスケア・センター副センター長。10年以上にわたり、学校教職員の専門病院で、教員に特化したメンタルヘルスケアや職場復帰支援をおこなってきた)
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