傷ついた心をカウンセリングで治すにはどのようにすればよいか
私たちが行っているカウンセリングについて簡単に説明しておきたいと思います。カウンセリングと相談の本質的な違いがわかっていない人が多いからです。
相談はアドバイスをもらうことが主になります。ところが、カウンセリングでは基本的にアドバイスはしません。相手の言ったことを、鏡に映すように繰り返していくことが基本になります。
そして、同情ではなくて、共感を使います。たとえば、電話でのこんなやり取りを創造してください。
A「私、こんなことがあったの。どうしよう」
B「そう、そんなことがあったの」
A「そうなのよ、そういうことがあって、困っているのよ」
B「そういうことがあったのでは、困るわよね」
そうやっているうちに、Aの頭に解決法がひらめいて、「ああ、わかったわ。じゃあね」と言って電話を切ってしまう。Bは何もアドバイスしていません。Aの話を繰り返しているだけです。そうしているうちに、Aが自分で解決法を見い出していきます。これがカウンセリングです。
相手の気持ちを聞き、それを共感的に返していると、相手は何を言いたかったのか自ら気づき、また何とはなしに気持ちが通ずるような気がしてきます。このように心理的な安全感が得られると、何かがひらめきやすくなるのです。そういう効果を高めるのがカウンセラーの仕事です。人は自分の問題を自分で解決する力を本来的に持っているという確信があるから、カウンセリングが成り立つのです。
誰でも自分のカウンセリング、自分の子どものカウンセリングができるようになってもらいたいと思います。
中学三年生から高校生にかけては心が成長しやすい時期です。その成長期に間違った関わり方をしている親が非常に多い。たとえば、不登校というのがあって、子どもが「今日は気分が悪いから学校を休みたい」と言ったとき、母親はよく「先生と何かあったの。友だちとけんかでもしたの。いじめにでもあっているの」などというように、イエスかノーを迫るような閉じた質問ばかりします。こういう閉じた問い方をすると「そんなことはない」と答えたりしやすく、本音を出しづらいのです。
カウンセリングには「開いた質問」というのがあります。例えば「いま、どういう気持ちですか」というように、イエスかノーを迫るのではなく、意見や気持ちを言えるような質問のしかたをしなければいけない。不登校で悩んでいる子どもには、どういう気持ちなのかを聞くことが大事です。
次に、相手の話を聞くには「沈黙」を使います。カウンセリングでは、相手の話を聞くときに、沈黙することが大事です。沈黙しないと相手はしゃべってくれません。心をまっ白にして、相手の気持ちを聞こうとします。相手の気持ちの強いところで「ああ、なるほど、そうか」と、うなずく、タイミングが大事です。相手の気持ちに合った表情をとらなければいけない。
不登校になって、誰かに会うのがむかつくなら、学校に行くのはいやでしょうが、ほんとうの原因が自己嫌悪なら、自分に原因があるわけですから、家にいようが学校にいようが同じです。自己嫌悪があるからこそ、そんな弱い自分を理解してくれない人にむかつくのです。そこに甘えがあるのです。同時にだからこそ自分を変えて成長したいと思っているのです。
人間の性格は、ほうっておいたら、何年たってもかわりません。自己嫌悪がほんとうに強くならないと、人間の行動パターンは変わらない、成長しないということです。ノイローゼ的な状態になると、すごく変わりやすい。これは、お産の状況に似ていると思います。陣痛という痛みがあって、その周期がだんだん短くなって、最後に新しい生命を産む。だからカウンセラーは産婆さんのようなもので、いてもいなくてもいいけれども、いたほうがスムーズに産めて安心というわけです。その意味では、ノイローゼ的な状態になったら、むしろ赤飯を炊かなければいけない。
自分の魂の痛みが強まったときは、自分を成長させようという気持ちが高まっている証拠です。そういうときに癒される場面というものが非常に大事になってきます。癒される場面にいると、気づきのひらめきも起こりやすいし、自分の本当の問題が自然に出てきます。
自然の中にいたり、人と楽しい話をしているときは、心理的に安定感が出てほっとします。カウンセリングをされているときに似た癒しの場にいるとき、気づきが生まれるのです。そして、癒しにはとくに、共感ということが重要になってきます。
共感というのは、同情や同感ではなく、相手が感じている感情をイメージの共有、セリフでの表現を通じて自分も体験することです。
たとえば、病棟のベットで苦しんでいる子どもがいて「お母さん、つらいよう」と言ってるときに、それをお母さんが看護婦に伝える場合、お母さんが看護婦さんに「子どもが『お母さん、つらいよう』って言うのです。なんとかなりませんでしょうか」と言えば、看護婦も、子どもの気持ちがじか伝わり共感しやすくなり、いても立ってもいられない気持ちになります。つまり、相手の心によく響く。これがともに感じる共感です。
それを「子どもがかわいそうだから、なんとかしてください」と言ったら、それは母親がかわいそうだと感じていることであって、看護婦に母親の気持ちは伝わっても、苦しんでいる子どもの気持ちはじかに伝わりません。
したがって、カウンセラーは相手の気持ちをきちんと聞き、相手のイメージをきちんと持って、共感し、癒しのためにそれをセリフとして用い再現しなければならない。
この痛みの中で子どもは新しい自分を誕生させるわけですから。これに気がつけば元気になれるのです。
ところが、一般の親たちは、子どもが不登校を起こすとあわてふためいて、むしろ引き下がって口をださないようになる。とくに父親にはそういう傾向が強い。「おまえにまかせる」と言って、母親に押しつけてしまう。母親もどうしようもなくて、カウンセラーなどにまかせて退去してしまうことが多い。
こうして、子どもは自分の問題から逃げる。それは成長の問題だから、それほどむずかしいことではないのに、父親も逃げるし、母親も逃げてしまう。むしろ、親のほうが成長する必要があります。
このあたりのところを、みなさんの子育てのために参考にしていただければ幸いです。
(宗像恒次:1948年大阪府生まれ、心理学者。筑波大学名誉教授。SDSを設立し、セミナーの開催や心理カウンセラーや健康心理療法士の養成を行っている)
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