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なぜ日本経済は低迷し社会全体に閉塞感が漂うようになったのか、それを打開するにはどうすればよいか

 日本は1945年の敗戦で産業や社会基盤は跡形もなく無くなった。大規模な空爆で日本の建物などはすっかり焼け落ちてしまった。しかし、日本人はそのような悲惨な状況のなかにあっても、国民一人ひとりが焼け野原で敢然と立ち向かった。「なにくそ」と歯を食いしばり、努力と知恵を絞り出し創意工夫を続けた。日本は苦境を乗り越え、高度成長を果し、奇跡といわれる経済復興をなしとげた。敗戦の廃墟から、わずか20年あまりで世界第二位の経済大国を実現した。
 しかし現在、日本は国債残高がGDP比で200%を越え、もはや財政破綻寸前といっても過言ではない。日本経済も伸び悩んでいることもあり、国民の間に停滞感、閉塞感が漂っている。こうした混沌とした状況のなかであるからこそ、状況に流されず、環境に負けないだけの、強い精神が、まず必要なのである。
 それなのに日本人は、我がこととしてとらえず、傍観しているように見える。日本は他民族の侵略を受けなかったことから穏やかな民族である。日本人は柔和でやさしく、純朴な性格をしている。長いものに巻かれ従うというのも日本人の特性である。
 そのような民族であるからこそ「このままでは、われわれは滅亡してしまう」と、リーダーは国民に声高に説く必要がある。繰り返し説きつづけなくてはならない。
 なぜ、日本経済は低迷を続け、社会全体に閉塞感が漂うようになったのか。私は、それは人々の心のありようではないかと考えている。人々の「思い」を変えることが重要だと私は考えている。
 不振の理由を、他に転嫁する人も多く見受けられる。しかしそうではない。現在の日本経済、日本の社会にとって、何が一番足りないのか。それは「なにくそ、負けてたまるか」という強い闘争心、いわば「燃える闘魂」である。これがいまの日本に何より必要である。
 戦後の経営者たちはみんな「なにくそ、負けてたまるか」と闘魂を燃やし、互いに競い合い、切磋琢磨しながら、日本経済を活性化してきた。経営者が燃える闘魂を持って経営目標の実現に向けてまい進するとともに、集団の意識を高めていかなくてはならない。また経営者には「命を賭けて従業員と企業を守る」といった気概と責任感が必要不可欠である。
 ものごとをなそうとするには、みずから燃える人間でなければならない。松下幸之助(パナソニック)、井深大(ソニー)、本田宗一郎(ホンダ)氏も「燃える闘魂」を心に秘め、強烈な意志を持ち、数々の困難を克服していった。そんな先人たちの凄ましい熱意、情熱、闘魂が、ものごとを成就していく原動力となり、企業を成長発展へと導いていったのである。
 ビジネスの世界で勝つには「何がなんでも」という気迫で、なりふり構わず突き進んでいくガッツ、闘魂がまずは必要である。「燃える闘魂」をたぎらせ、誰にも負けない努力をした者が生き残り、闘魂なき者、努力をしなかった者は絶えていくしかないのである。
 どのような苦境にある企業であろうとも、全社員が闘魂あふれるリーダーのもと、強く純粋な心で、限りなく努力と創意工夫を重ねていくならば、いかなる経済変動をも克服し、大きな発展をしていくことができる。
 いまこそ、闘争心をたぎらせてきた人たちがリーダーとして立ち上がらなければならない。日本には勤勉な従業員と高度な技術、十分な資金を持った企業がたくさんある。「燃える闘魂」を持ったリーダーが立ち上がり、奮起さえすれば、日本は必ず再生できるはずである。そのような企業が増えていけば、日本経済も復活していくに違いない。
 産業社会だけではない。国民一人ひとりが純粋で強い「思い」を抱き、誰にも負けない努力を続けていけば、日本は必ずいままで以上に存在感を発揮することができるようになるだろう。
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稲盛和夫:1932年生まれ、実業家。京セラ・KDDI創業者、稲盛財団理事長として国際賞「京都賞」を創設し人類社会の進歩発展に功績のあった人を顕彰、日本航空を再建し取締役名誉会長、若い経営者が集まる経営塾「盛和塾」の塾長)

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