教師は自分の指導タイプを知ったうえで、たまには違った対応をすることも必要である
私は新任教師の頃、学級にトラブルが起きることがとても嫌でした。そんなとき、小学校の恩師が「あのなあ、トラブルはチャンスなんだよ」と語りました。彼は、学級の子どもが問題を起こしたら、そのときこそ、その子どもとたっぷりとかかわる機会だと言いました。「トラブルはやっかいごとだ」と思っていた自分には衝撃的でした。
それからは、学級のトラブルや問題行動は、「学級づくり、子どもとの関係づくりの最大のチャンスだ」と、とらえるようになり、学級づくりが楽しくなっていきました。
学級生活にトラブルはつきものです。学級づくりのうまい教師は、トラブルが起こったとき「やっかいごと」と思わず、トラブルをうまく学級づくりに利用しています。トラブルに対する有効な対処法を知っていれば、「やっかいごと」に見えていたことが「学級づくりのチャンス」に見えてくるはずです。
教育書を読み、講演を聞き、優れた実践家のいう通りにやってみたけれど、うまくいかなかったという経験をした教師はいませんか。実践家の示すこと、あなたの努力に嘘はありません。うまくいかない原因のひとつは、実践家の指導タイプとあなたの指導タイプが違っていたからです。
学級の雰囲気をつくり出す大きな要因は教師です。教師にはつぎのようなタイプがあります。
(1)厳しいタイプ:物事を決めるとき、子どもをぐいぐいリードするタイプです。
(2)優しいタイプ:子どもの気持ちを尊重し、子どもと相談しながら進めるタイプ。
(3)元気なタイプ:クラスをわっと盛り上げてやるのが好きなタイプ・
(4)楽しいタイプ:落ち着かせるのは苦手だが、楽しく明るいのが好きなタイプ。
(5)しっとりタイプ:テンションを上げて話すのは苦手。落ち着いて話すのが好きなタイプ。
(6)じっくりタイプ:すぐに結果を求めず、時間をかけて成果を求めるねばり強いタイプ。
まず、教師は自分の指導タイプを知り、その流れに合った指導を行う力量が必要です。ある日突然、教師が自分のタイプに合わない指導に切り換えても、子どもには不自然に映ります。子どもは不自然さを嫌います。不自然であることは実践している教師が一番感じているはずですから、その指導方法を維持することができません。したがって、うまくいかないわけです。
しかし、教室にはさまざまな個性をもつ子どもたちがいます。厳しく迫られるのが好きな子どももいれば、優しく迫られないとだめな子どももいます。また、同じ子どもでも、そのときの気分で、いつもの対応に反応しない場合もあります。
食べ物も、いくら大好物でも毎回出されれば、さすがに飽きます。子どもたちの個性やそのときの状態に的確に対応するためには「自分のタイプを知ったうえで、たまには違った対応をするしなやかさ」をもつことが必要なのです。
一つの指導法に縛られるのではなく、柔軟に指導法を選択し、さまざまな子どものニーズに対応することも必要なのです。つまり、「自分の指導タイプを認識したうえで、ふだんの指導アプローチを変えてみる」といった、対応のレパートリーをもつことも必要なのです。自分の指導のタイプを知って、それを逆手に取り、指導の効果をあげることもできます。
例えば、六年生を担任している、わりと厳しい口調で子どもに話す女性教師がいました。それを自分でも自覚していました。ある日、私に「この頃、話を聞く子どもたちの態度がよくない」とこぼしました。そこで私は「子どもに話を聞くようにお願いしてみたら」と提案したら「やってみる」と言ってくれました。
次の日、彼女は笑顔で職員室に入ってきて「あのね、あの子たち、一斉に注目するのよ。信じられない」と嬉しそうに語っていました。いつも彼女は「話を聞きなさい!」とぴしゃりと言っていたそうです。それを高圧的と子どもたちは感じていたのかもしれません。いつもと違った担任に素直に反応したのです。彼女は、それからときどきそうした口調で話をするようにしたといいます。
(赤坂真二:1965年新潟県生まれ、小学校教師(19年間)を経て、上越教育大学教授。アドラー心理学アプローチの学級経営を研究。現場の教師を勇気づけたいと願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚している)
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