生徒が言うことを聞かなくなってきた、生徒に言うことを聞かせるにはどうすればよいか
現在、私たち教師が直面している最大の問題は、生徒が言うことを聞かなくなってきたということである。かなり厳しい状況にたたされている。生徒に言うことを聞かせる権威を自力でつくっていかねばならない。それなしには何も始まらない。ではどうやって権威を身につけていくのか。
まず、私のような普通の人間が教師をやっている、というところからは始めなければならない。特に優れた教師なら、黙って生徒の前に立つだけで、生徒が影響を受けて変わっていくようなことがあるかも知れないが、普通の人間にそのようなことは期待できない。
権威とは、言うならば、他人がその人に一目おいて、その人の言うことはとりあえず聞こうという気にさせる力である。教師の仕事は生徒がイヤでもやらせなくてはならないことがたくさんある。例えば、生徒が授業中おしゃべりをしていたら、静かにさせる必要があり、掃除をサボッていたらきちんとやらせなければならない。
自分の権威を自分でつくっていく基本は、生徒との距離をきちんととることである。教師が生徒と仲よくニコニコとつき合っていくことができればそれでもいいかも知れないが、そんなことは不可能である。ふだんニコニコとなれあっている生徒に対して、ある日突然、自分の指示に従うように言ったとしても、うまくいくわけがない。
私たち教師は演劇の舞台の俳優と同じように、教師としての役づくりをする必要があるということだ。他の職業だって、裸のままの自分が通用するわけではあるまい。その職業が要求する役割を演じることによって、仕事ができるようになるのだ。
教師の役づくりに必要なことは
(1)教師を演ずる衣装
私も若いころは、生徒の前で非常にラフな格好をしていたが、ラフな服装で生徒にきちんとしたことを言うは非常に難しいということがわかってから、スーツにネクタイという衣装で通している。スーツとネクタイはお互いを身構えさせる力を持っている。その服装に身を包むことによって自分を限定しろ、ということである。その意味で衣装の持つ力をバカにしてはいけない。私たちは裸で生徒に立ち向かえるほど偉大な人間ではないのである。
(2)丁寧な他人行儀な言葉づかい
私たち教師は、学校で子どもを教育するのが仕事である。子どもを一人前にすることだから、自分で考えて行動し、その行動に対して責任をとらせる場面を少しずつ増やしていく必要があるが、まずは、ほとんどが子どもたちに強制することから始めねばならない。
生徒に対する言葉づかいは、なれなれしいものは絶対にだめだ。友だちのような関係で、生徒に何事かを強制することなどできはしない。いろいろと妙な説得など始めるからトラブルが生じるのである。
学校には一方的に生徒に押しつけなければならないことがたくさんあり、それをやるためにはきちんとした言葉づかいは基本である。生徒となれあってベタベタするのが教師の仕事ではない。教師は生徒から離れた関係をつくることに耐えなければならない。
言葉づかいの訓練は意識してやれば、少しずつできるようになる。面白いことに、言葉づかいが変わると、生徒との関係が変化していく。
(3)顔つきを意識してつくる
顔つきをつくるのはそう簡単にはいかない。自分の顔つきは自分で見ることができない。だが、言葉よりも顔つきの方が生徒に与える効果は大きい。とりあえず、こわい顔、冷ややかな顔、にこやかな顔など、自分で意識して顔つきをつくることである。
その場その場でどんな顔つきをすればいいのか、その時々の生徒の反応を敏感につかみとって考えていく。これが演技の基本なのだ。
(4)時間を守る、約束を守る
集団生活をする時に、時間を守ることは決定的に重要である。まず教師がやってみせなくてはならない。集会のときに、教師があとからノコノコ出ていくなんてもってのほかである。チャイムが鳴ったらすぐ授業に行き、チャイムでピシッと終わりにする。など基本的なことである。
生徒との約束は絶対に守る必要がある。権威は相手が信用することによって成り立つものである。世間でも約束を守らない人の言うことを聞く人はいない。
(5)生徒の内面に立ち入らない
私たち教師は、生徒との人間的なつながりを持ちたいと思い、生徒の内面に踏み込むようなことを平気でやってしまうものだ。子どもも独立した人間である。自分から心を開かないのに、ドカドカと土足で内面に踏み込むようなことをしていいはずはない。
教師は生徒の思っていることを変えてやろうなどと思いあがってはいけない。生徒の悩みを聞いて何とかしてあげようなどというのもやめた方がいい。人間の悩みにつき合うには、よほど高い人格とカウンセリングの技術を身につけていなくては無理だ。
以上のことは、教師としての役割に徹する努力と、自らの人間の幅を広げていく努力の二つにまとめることができる。生徒と本気になって対していく中で、生徒から多くのことを学んでいく姿勢が教師には絶対に必要なのだ。自らの権威を少しずつつけていく中で、自分がやれることを精いっぱいやってみることが、今、教師に要求されている。
(河上亮一:1943年東京都生まれ、埼玉県公立中学校教諭、教育改革国民会議委員、日本教育大学院教授を経て、埼玉県鶴ケ島市教育委員会教育長、プロ教師の会主宰)
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