学校が保護者の生きづらさや葛藤をぶつけられる対象になってきている、どう対応すればよいか
保護者の本心を理解していくことを通じて、相互理解の関係を築いていくことが重要です。しかし、実際には保護者の抱えている問題が深刻で、保護者の思いを共感的に理解するかかわりだけではやっていけない場合があります。
そのような場合には、まず、お互いの人格に侵入しあわない関係を築いていく努力がきわめて重要になってきます。ありのままを受け入れるということは「相手を変えようとしない」ということであり、「相手の言いなりになる」ことではありません。
例えば、子どものためというより、親自身の抱えてきた傷つきや葛藤を、担任に向けて執拗に攻撃して徹底的にやりこめて自分の葛藤を発散し、意気揚々と帰っていくといったことがありました。私は学校と協議して、担任と教頭が一時間たったら話し合いを終了し、それ以上は延長しないようにしました。当然、親は激しく抗議しましたが譲りませんでした。明確な限界を設けてかかわった結果、親は担任や学校を支配できなくなり、引きこもり気味になってしまいました。その親の自分の問題には自分自身で向き合ってもらうしかありません。他人が解決してあげることはできないのです。
「勝つか負けるか」の関係に陥らないで、相互尊重の関係に立って対話の通路を開いていくことが大切です。
気になる保護者をいくつかに分けると
(1)わが子のことしか考えない保護者
これが教師にとって一番悩まされている問題かもしれません。このような保護者が増えています。わが子のことしか考えていない保護者の言動が、実際には「わが子のためではない」場合が多いことに留意する必要があります。
私がよく疑問に思うのは、本当に保護者がわが子の「最善の利益」を考えて行動できているのだろうかということです。例えば、学童保育の現場に乗り込んできて、相手の子どもを叱りつけることは、自分のストレスをぶつけているだけの行為で、「わが子のため」にならず、その後の集団生活でわが子が居場所をもちにくい状況に追い込まれます。このことが保護者に理解されていません。
「どうしていくことが、お子さんにとって一番いいのか、一緒に考えたいと思っています」と、わが子にとって何が最善の利益かを保護者に考えてもらうことが大切です。
(2)わが子の世話を放棄している保護者
わが子のことに関心をもたない保護者です。わが子に基本的なケアを行おうとしない保護者です。自分の自己愛を満たすため手段がわが子でなく、例えば、異性やブランド品を求めるケースがあります。
そのような保護者の子どもの、苦しさや傷つき、見捨てられ感、そういう思いを理解し、寄り添おうとしてくれる大人がいることを子どもが感じ取っていけるように援助し、子どもの心のなかに他者や自分自身に対する信頼感を築いていくことが実践の課題と思われる事例もある。
(3)保護者の考えややり方で学校をコントロールしようとする
学校現場の状況をまったく考慮せず、事細かい要求を出して教師をコントロールしようとする保護者も増えています。例えば、急に行事の予定が変更になったりすると、激しく抗議する保護者があります。こういった保護者のなかには、発達障害や自己愛性パーソナリテイの問題がかかわっている場合もあります。
(4)ささいなことで「怒り」を爆発させる保護者
学校にどなり込んでくる保護者がいます。どなり声をあげて相手を委縮させることで、自分の力を誇示しているように感じます。表面的な怒りの言動にとらわれないで、学校批判の背後にある保護者自身の抱えている生きづらさや葛藤などの思いを丁寧に聴き取っていくかかわりが必要になってきます。じっくりと腰をすえて保護者の本心を聴き取っていくには、大きなエネルギーが必要で、とても疲れてしまいます。
保護者自身が自分のなかにある本質的な「いらだち」や葛藤に直面していくことなしには問題の解決は難しいでしょう。それだけに、このような保護者への対応には困難な面があることは事実です。
保護者とのトラブルを解決していくためのスキルは、「わたしメッセージ」で自分の意志を非攻撃的に表現する。保護者の意見や感情を傾聴する。保護者の本心を明確にし、本心に視点をあてていく。考えられる解決策をできるだけ多く洗い出し、保護者の本心に応えられるような解決策を選ぶ。といったことが考えられます。
これらのスキルは知識として学習しただけで現実の場面で実践するのはかなり困難です。職員研修で、トラブル場面を再現して緊迫したなかでの対話の進め方をロールプレイして実践的な学習を進めていくことが大切であると考えています。
今や、学校が保護者の生きづらさや葛藤をぶつけられる対象になってきていると思われます。だから、保護者からの激しい非難や攻撃をすべて自分の非や責任と受けとめるのではなく、「親が今、自分のなかでは抱え込みきれない生きづらさを、こうして表しているのだな」と理解することで、適当な距離をとって、教師が自分を守ることも必要になっています。
このような保護者の感情や葛藤をどこまで受けとめていけるのか。教師も生身の人間ですから、限界があることを自覚しておく必要がある。私たち教師自身が自分をしっかりと大切にし、ケアしていくことが大事です。教師同士がお互い直面している傷つきや葛藤を表現しあい、サポートしあえる関係性を築いていくことが不可欠です。お互いの「つながり」のなかで自分自身を守っていくだけでなく、子どもたちを守っていくことにもつながっていくのだと思っています。
(楠 凡之:1960年大阪生まれ、北九州市立大学教授。専門は臨床教育学、家族援助論。全国生活指導研究協議会研究全国委員、日本生活指導学会理事(研究委員長)、北九州子育て支援と子ども文化ネットワーク代表)
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