教師の仕事は子どもたちや保護者から激しい攻撃を受ける感情労働者である、どうすればよいか
子どもの指導、保護者とのコミュニケーションを考えれば、教師の仕事はまちがいなく感情労働者であるといえるでしょう。
感情労働においてやりとりされる感情には、その職業にふさわしい適切な感情が想定されていて、それから外れる感情の表出は許されません。それによって能力が評価されます。
たとえば、客が店員に対してどなり声をあげても、店員は自分の感情を極度に抑えて対応しなければならないのと同様、保育士は心身ともに疲れていても、小さな子どもに対してイライラした感情をぶつけることは許されないでしょう。
学校の教師にも感情規則はあります。疲れていても、朝の会で子どもの前に立つときには気持ちを切り替えて、笑顔で子どもたちを出迎えることが感情規則としては求められています。保護者が担任にどなり声をあげても、同じように感情的になることは許されず、あくまで冷静に対応しなければなりません。そのような感情規則にきちんと従っているかどうかを管理職から評価され、感情に対する管理統制がいっそう強化されてきていると言えるのではないでしょうか。
それだけに、感情労働が心身に及ぼす大きな影響を十分に自覚していなければ、バーンアウト(燃えつき症候群)に追い込まれてしまう危険性が急激に増大するのではないでしょうか。
保護者から向けられてくる激しい非難や攻撃をすべて教師自身の非や責任として受けとめるのではなく「保護者が今、自分のなかで抱かえきれない生きづらさをこうして出しているのだな」と教師が理解することで、保護者と適切な距離をとって自分を守ることが必要になってきます。
あるいは、教師が「いま、私は保護者の生きづらさや精神的葛藤の邪気をいっぱい吸いとってあげているんだ。いい教師だなあ」という開きなおることが必要なときもあるかもしれません。
現代社会のなかで生じる人びとの生きづらさや傷つきは、しばしば他者に対する怒りや憎しみとして表出されています。今日、子どもたちだけでなく、大人自身もしばしばお互いに孤立分断され、生きづらさを抱かえこまされているだけに、お互いの弱さと生きづらさを表現しながら、そこから「つながり」の契機を築いていくことが何より重要になってくるのです。
学校現場に向けられる、子どもたちや保護者の激しい攻撃の、もう一歩深いところにある生きづらさや葛藤に共感的に応答されていくとき、それが確かな「つながり」を築いていく力にもなり得るのです。そのような「つながり」を教師と保護者とのあいだに築いていくことが、今、切実な課題となっているのです。
しかし、理不尽な要求をしてくる保護者が抱かえている生きづらさや葛藤を共感的に理解して、保護者との信頼関係を深めていけるようすることが、教師の心理的負担を生み出し燃えつきてしまう危険があります。
そのために、まずは教師たち自身が自分をしっかりと大切にし、ケアしていくこと、教師同士がお互い直面している傷つきや葛藤を表現しあい、サポートしあえる関係性を築いていくことが「共感疲労」に追いつめられないためにも必要不可欠になってくるのではないでしょうか。そのようにして、お互いの「つながり」のなかで自分自身をしっかりとケアし、人間的尊厳性を守り続けていくことが大切です。
(楠 凡之:1960年大阪生まれ、北九州市立大学教授。専門は臨床教育学、家族援助論。全国生活指導研究協議会研究全国委員、日本生活指導学会理事(研究委員長)、北九州子育て支援と子ども文化ネットワーク代表)
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