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学校崩壊の原因と、学校崩壊に立ち向かうにはどのようにすればよいか

 定年まで数年を残して私は三年間務めた学校から転任した。慣れて緊張感がなくなるのをおそれて、みずから望んでの転任だった。転任校では、学校の枠組みに入れない数名の生徒たちが暴力、器物破損、喫煙、授業妨害などをくり返し、学校を混乱に陥れていた。私は一年目に学年主任として、なんとかしようと必死に取り組んだが、教師の言うことを基本的に聞こうとしない生徒たちに、いかんともしがたい状況がつづいた。数名の生徒たちは他の生徒を引きずりこみ、不安定な状況が拡大していき学校崩壊の最前線で私は生きるようになった。
 悪戦苦闘しているときに、学校現場を代表して教育改革国民会議の委員に任命(2000)された。びっくりしたことは、委員のほとんどが現在の学校の実情をまったく知らないことだった。さらに、会議で文部科学省の官僚たちが、学校現場の現実について現場の私とはまったくちがったとらえ方をしていることに気がついた。官僚たちは自分たちのとらえ方が絶対的な真実であると信じて疑わないようだった。勘違いした現実をもとに政策を立てられたのでは現場は混乱するだけである。いちばん苦しむのは生徒たちである。
 問題はそれだれではなく、マスコミをはじめとする世の識者、評論家、大多数の大人たちが、学校の現実を自分の目で見ようとしていないところにあるのではないか。ひ弱でキレやすく社会性のない新しい子どもたち。子どもの社会的自立のための学校の教育力も大きく低下している。いまもっとも必要なのは大人たちが自分の目で現実を見据え、問題解決のために動きはじめることなのである。
 私は教師である。生徒の社会的自立のために働かねばならない。問題行動をする生徒が私を受け入れないのはしかたないとしても、彼らの行動が学校の秩序を壊し、他の生徒たちの学習を妨げるのはなんとかしなくてはならないと思った。授業の混乱を抑え、暴力や器物破損、喫煙や飲酒などをやめさせようとあらゆることをやってみた。しかし、教師に与えられた武器はほとんどないことが明かになっただけだった。教師も生徒も混乱のなかで生きていくしかなかったのである。
 決定的な問題は、日本の学校システムにある。生徒も将来一人前の大人として日本の社会で生きていかなくてはならないとしたら、いまのままの学校でいいわけがない。彼らに合った教育の場を別につくり、そこでじっくり社会的自立のための学習を積ませることが必要なのではないか。
 さて、もう一方は若い教師たちのことである。私は学年教師の共同性をつくることに失敗した。私が転任一年目であり、影響力を充分に発揮できなかったこともあったろう。しかし、根本的には生き方の問題だったようだ。若い教師たちは、これまで自分で考え、いっしょに行動し、結果の責任を取るというような経験をほとんどしてこなかったのではないかと思う。きわめて個人主義的で学年の共同性をつくるということになじまなかったようだ。
 学校から学年教師の自治的活動がどんどん消えている。それが学校を混乱させている大きな原因の一つであることは明らかだ。そのような学校の変化のなかで登場したのが、管理職が直接、教師をコントロールするやり方である。企業の経営管理の考え方をこの学校で取り入れていた。教頭が一人ひとりの教師と結びつき、教師はことあるごとに教頭に相談に行き、指示を求めるというシステムがこの学校を支配していた。
 しかし、状況がきびしくなったとき、みんなでいっしょに、それぞれがちがった個性を合わせて事態にぶつかっていけば、互いに支え合うこともできるだろう。だが、一人ひとりがばらばらに立ち向かおうとすれば、他人をかまっている余裕などない。耐えられない教師が出てくるもの自然のなりゆきである。いちばん弱い教師が破たんし、それが他の教師へも波及するのは時間の問題だ。
 文部科学省は自由化・個性化の教育改革で学校を変えようとしてきた。私はこの一年自分が体験してきた学校はその成果だと思っている。文部科学省は大きな勘違いをしているのではないかと思っている。生徒も教師もその大多数は自立した個人にはなりえないのではないかと思うからだ。責任に耐えられる人間はきわめて少ないのである。
 自由と強制、個性化と共同性、この二つが必要なのである。それをもとに国民()の一人ひとりがもう一度、教育や学校の役割を根本から考えはじめる必要がある。それが学校崩壊に立ち向かう出発点だ。この一年間は学校崩壊の現実を生き、学校、教育、家庭、子育てについて考えることが多かった。さらに他者とどう生きるのか、という根本的な問題にぶつかることにもなった。悪戦苦闘の一年だったが、感謝すべき一年だった。
(
河上亮一:1943年東京都生まれ、埼玉県公立中学校教諭、教育改革国民会議委員、日本教育大学院教授を経て、埼玉県鶴ケ島市教育委員会教育長、プロ教師の会主宰)

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