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保護者のクレームが激しすぎ、その言動を理解するのが困難な場合、どのように対応すればよいか

 保護者からのクレームの内容がどうも了解しにくいものであったり、起きたことに対して、クレームがあまりにも激しすぎ「違和感」を感じたり、その言動を理解するのが困難な保護者がいる。その保護者の背後にある問題と、どう対応すればよいか
1 保護者の発達障害、軽度の知的障害の問題
 保護者の中にも発達障害の問題で様々な生きづらさや対人関係での困難さを抱えている人がいる。そのことが学校と保護者との人間関係の形成に著しい支障が生じている場合も少なくない。
 例えば、相手がどう感じているかにおかまいなく、一方的に自分の思いを語ったりして人間関係を築いていくのが難しい。他者の感情を理解することが困難である。相手の話の細部にこだわり、肝心なところが理解できない。一つのことにこだわりだすと、なかなかそこら離れられない。「好きか、嫌いか」が非常に強いため、わが子や教師を極端に評価になりがちである。被害者的に解釈し、ささいな言葉を悪意に解釈しがちである。
 学校現場でトラブルになる保護者の中に、このような問題を背景にもつ保護者が含まれている。障害を適切に理解し、あいまいな表現を避け、要点を明確に伝えるなど、保護者が理解しやすいコミュニケーションを心がけていくことも重要である。
2 保護者の過去の被害体験からくる問題
 例えば、保護者の過去のいじめ被害体験がわが子の友だち関係で蘇えらせ、いじめと決めつけ、学校が対応に苦慮するような激しい要求を出し続けることがある。
 このような場合、保護者の子ども時代の学校体験とその中での傷つきや怒りをていねいに聴き取り、その思いを受容していくことによって、わが子の問題と保護者の問題を切り離して考える心のゆとりを取り戻せる場合も少なくない。
3 パーソナリティ障がいの問題
 著しい性格的な偏りが続き、そのために社会生活に支障をきたしている場合である。
(1)
自己愛性パーソナリティ障がい
 自分だけでなく、わが子も周囲から特別扱いされて当然であると思う。学校が「わが子」を特別扱いしてくれないと、あたかも自分が不当に扱われたように傷つく。受け入れられないと、激しい怒りをぶつけてくる。
 このような障がいの人は、「わたしはすごい人間なんだ」と自己愛に浸ることによって、深いところで自分が抱える無力感に向き合うことを拒否している人であるといえる。
 とりあえず、「癒されない自分」を内面に抱えている人として共感的に理解し、その能力を積極的に評価し、がんばりや苦労を明確に言葉でねぎらう。自己愛を満たしていくことによって穏やかな関係を築いていくことができる場合がある。
(2)
境界性パーソナリティ障がいの問題
 他者と安定した信頼関係を築くことが困難であり、わずかなできごとでも相手から見捨てられた、拒絶されたと感じ傷つき、自傷行為や破壊行為などの行動で表現されることがしばしばある。ひどい抑うつを体験している場合がある。
 多くの場合、虐待されて育ち、自分を受けとめてもらえてこなかった。そのために自己肯定感がもてず、わずかなできごとでも「もう自分はだめだ」という感情に襲われてしまうのである。
 教師がこうした保護者と安定した信頼関係を築いていくことはきわめて困難であるが、一定の距離を保ちつつ、保護者の感情の起伏に振り回されない一貫した関わりが重要になってくる。
(3)
妄想性パーソナリティ障がい
 他人の動機を悪意あるものと解釈するといった、不信と疑い深さが特徴である。
 根拠もないのに、他人が自分に危害を加える、だますという疑いをもつ。悪意のない言葉やできごとにも、自分をけなす意味が隠されていると読む。自分の性格や評判に他人からの攻撃を感じ取り、すぐに怒って反応する、逆襲する。
 学校だけで保護者対応することは困難である。このような保護者に育てられていると子どもの発達にもよくない影響があると考えられる。関係機関とも協議し、精神科医療機関との連携も含め、家族支援のあり方を検討していくことも必要である。
4 クレームの言動を理解するのが困難な保護者に対する理解と対応はどうすればよいか
 まず、なによりも重要なことは、保護者から見たときの見え方、感じ方を共感的に理解していくことであろう。
 例えば「中学生のとき、そのような仕打ちを教師からされたら、『教師なんて信じられない』と強い不信感をもたれるのも当然ですよね」と受け止めていくことが可能になるであろう。いかに激しい抗議であっても、感情や思いを共感的に理解して応答していくことは関係づくりには必要である。
 しかし、保護者の抱えている問題が重い場合は、思いを共感的に受けとめていく姿勢だけでは、かえって事態が深刻化していく場合もある。教師を激しく攻撃し、支配・操作することに全エネルギーを費やす「いちゃもん依存症」の保護者もいる。
 そのような場合、保護者の言動に振り回されない一貫した対応の枠組みを学校全体でつくって努力が重要になってくる。また、脅迫的な言動には「今のように発言されると、こちらも恐ろしくなってしまい、落ち着いた対応ができません。穏やかに話していただけないでしょうか」と粛々と返し「バワーの濫用」に歯止めをかけることも必要である。
 さらに、保護者が暴力的行為や恐喝的な行為に及ぶ場合は、警察への通報も含めた毅然とした対応も考えられるであろう。
 また、病理性が深刻と判断される保護者に対しては、専門職を交えて、関係諸機関の連携の中で対処していくことも必要であろう。感情の起伏が激しく、頻繁に攻撃的になる保護者の場合、子どもが虐待されていることが多い。児童相談所等も含めて学校だけでなく、福祉・医療・司法機関との連携の中で対応を行っていく必要がある。
(
楠 凡之:1960年大阪生まれ、北九州市立大学教授。北九州子育て支援と子ども文化ネットワーク代表、日本生活指導学会理事。専門は臨床教育学で子どもの人格発達と教育指導、家族援助論)

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