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教師と保護者のトラブル問題の現状と今後はどのようになっていくか

 私は2000年前後から、社会全体が余裕がなくなり、苛立ちやムカつきの矛先がより弱いものへと向かう傾向に危惧を抱いていた。何が問題なのか語り合い、結びついていくことが大切なのに、特定の組織や人を批判する風潮が強まっている。
 一部の政治家やマスコミが、特異なケースをあたかも全てがそうであるかのように批判し始めた。それは教職員バッシングだけでなくあらゆる分野におよんでいる。
 保護者と教職員は「敵ではない」のに「敵である」かのように、ときとして鋭い対立関係へと突き進んでしまう。本来は、保護者と学校がきたんなく話し合うことで、子どもの成長をはかるべきことが、かたわらに置かれて、まさしく保護者も学校も「追いつめ」られているのが現状である。
 ときとして、正されるべきものを超えた範囲まで及ぶと、受けて側は突っ込まれないよう予防線を張り始め、社会全体が内向きになり活力がなくなる。
 その現われの一つが、教職員の訴訟保険(子どもや保護者などから訴えられた場合の、弁護士費用と賠償費用を補償)への加入者の急増です。東京都では管理職のほとんどが加入し、教職員の約半数が入っていると推測できる。
 多くの企業では、苦情対応を専門に仕事としている人がいたりもする。学校には苦情対応を専門にしているプロの人はいない。教頭や生徒指導担当者が、当たることが多いが、他の雑多な仕事を抱かえながらの同時並行作業となっている。
 担任も同じで、ふだんの仕事とあわせて、苦情対応を行わなければならないために、負担や抵抗感が強い。さらに本来業務である教育指導に多大のマイナスの影響を及ぼし、より悪循環の構図に入りやすい。
 企業の場合は、苦情対応が担当者の力量を超えてしまった場合などは、比較的容易に上司など、別の人間に代わってもらうことができる。しかし学校では担任が対応し交代するのが難しい。交代するのは続行不可能となり担任を降りるとか休職するとか辞職という、きわめて不幸な形となって現われることになる。
 工場やお店では、勤務時間は職務に専念する義務があるが、それが終われば解放される。しかし学校では「スイッチがいつも入ったまま」の状態が、往々にして起きる。保護者とのトラブルが長引いた場合は、精神的に追いつめられ「いつ何が起きるか」戦々恐々とした時間が過ぎていく。気の休まるときがない、高度の緊張状態が長く続き精神的負担感の重圧がかかっている。
 学校は複数の子どもが介在しているという最もやっかいな難しさがある。保護者対応トラブルの場合、単独の子どもで起きることはきわめて少なく、他の子どもたちが関係している。関係者が多数になることによって、複雑さが膨れあがる。秘密の厳守はどこまでか、伝えるべきことは何か、誤解のないよう、相手を傷つけないような話し方の工夫をどうしたらよいか、完成された人格でない子どもということも配慮しなければいけない。
 『内外教育』の協力を得て、2012年に全国の学校(37049)に対して「学校だけで解決困難なケースが、昨年1年間でありましたか?」というアンケート調査を行った(回収率18)。その結果、23.5%が「あり」と答えている。全国的に解決が相当に難しい保護者対応問題が起きていて、その発生率が上昇していることは、ほぼ間違いないといえる。
 私は全国各地から相談を受けてきたが、事案が複雑化してきている。例えば、実にささいなことが、大きな問題になることが幾つもある。子ども同士の話し合いですむようなことが、あっという間に保護者同士のトラブルに発展し、学校が責任を追及されていく。
 生徒指導の問題が保護者対応の問題に、教育相談の課題が保護者対応の問題に転化していくことが急速に進んでいる。
 どこかの時点で学校や教職員の「限定設定」を訴えなければいけないのかもしれない。しかし、それは社会の学校に対する期待やまなざしの変化と、その代替え機関がどこにあるのかという重い課題と背中あわせにある。
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小野田正利:1955年生まれ、大阪大学教授。専門は教育制度学、学校経営学。「学校現場に元気と活力を!」をスローガンとして、現場に密着した研究活動を展開。学校現場で深刻な問題を取り上げ、多くの共感を呼んでいる)

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