いじめに万能な予防策や解決策などない、どんな困難をも乗り越えていける力を育てることが大事
いじめは犯罪です。からかっただけ、ふざけただけ、といってもそれらを複数の人間がやり、やられた人が不快や恐怖、不安を感じた瞬間、それはいじめになるのです。
いじめをなくすことは必須ですが、うちの子やクラスにいじめがあるかもしれないと思ったとき、私たち大人はどうしたらいいのでしょうか。
私は取材を通じ「こうすれば、いじめは起こらない、いじめられない、いじめっ子からわが子を守ることができる」など、簡単で万能な予防策や解決策などないということを強く実感しています。
私が宇治少年院で行われていた矯正教育を取材して学んだことは、子どもたち一人ひとりの特性を把握し、社会適応できるよう徹底的に指導することです。他の少年院と、こうも違う関係というくらい教育効果が違っていました。
非行少年とそうでない子どもを一緒にするなと思われるかもしれません。でも、その発想を変えない限り、いじめ問題は解決できないと私は考えています。
いじめ問題を取材していると、厳しい指導を行っている学校では、大人の目の届かない登下校中などでいじめが繰り広げられていました。教師が友だち感覚で、ルールが徹底されていないような学校では、いじめは露骨に行われていました。
一方で、いじめ問題を解決していった学校では、無意識のうちに反社会的な行為を下げる要素を強化するような指導が行われていることに気づきました。そこにいじめ対策のエッセンスが宿っていると私は確信したのです。いじめ問題の解決には、子ども自身にどんな困難をも乗り越えていける力を育てる必要があると考えます。
われわれ大人がすべきことは、子ども自身にどんな困難をも乗り越えていける「立ちあがる力」を向上させることです。いじめを経験しても立ちあがって、前に進む力を育てる必要があるのです。また、自立して社会参加するためには、人とつながる力も育てなければなりません。
たいていの子どもはリスクにさらされながら生きています。どれだけリスクがあっても、上手に生活し、社会を生きぬいていける弾力ある力があれば防げることができるようになります。将来、社会に出たときに不適応を起こさないための大切な力なのです。
それでは、前に進む力や人とつながる力は、どうすれば身につけることができるでしょうか。
「やめて」と言えることは大事です。いじめがそれ以上エスカレートしない可能性もあります。感情や思いを言葉にできる力が養われるように育てること。そのためには語彙を増やすことです。
逆境に強い子どもにするには、達成感を積み上げ、自分自身の可能性を信じる力が求められます。努力すればできると信じる力のことです。いじめに巻き込まれているときに、その状態から脱出するのは、たやすいことではありません。そういうとき、背中を押してくれるのは自分の将来を楽観し期待する力です。
いじめる側にならないためにも自分で決定する力(自己決定力)が必要です。やりたくないことはやらないなど、いじめに巻き込まれそうになる自分を防いだり、暴力を振るわれそうになったときに拒否するときの土台になる力です。
いじめに遭ったとき、どういう方法なら少しでもストレスを減らせるか、問題のありかを探り、自分のできることを考えて検討する力を身につけることです。
いじめを乗り越えるために必要なのはコミュニケーションする力です。なによりも大事なのは人の話を聴くことができるかどうかです。それと、事実と意見を分けて伝える力です。
相手の表情や声、態度に言葉の真意は透けて見えるものです。その透けて見えるものを読み解く力が備わっていないと、トラブルを引き起こしたり、空気がよめないとみなされて、いじめの引き金になることもあります。
将来、子どもたちが社会に出たときに、不適応を起こさないために「失敗しても立ちあがる力」は大切な弾力のある力なのです。いじめない力やいじめられない力とは、すなわち、弾力が育っていることをいいます。反社会的な行為をするリスク要因を下げる要因をたくさん身につけることが弾力を向上させると考えます。
弾力のある人とは、社会的能力が高い、自発性が高い、欲求不満耐性が強い、物事をあきらめない、困難を跳ね返す力がある、人から好感がもたれる、楽観的である、引きつける魅力がある、周りの人から支援を引き出す力がある、問題解決能力が高い、目的意識や自己コントロールする力が高い、先を見通す力がある、自己効力感が高い、自分を理解し短所を乗り越える力がある、社会に貢献する傾向が高いことなどがあげられます。
(品川裕香:1964年兵庫県生まれ、扶桑社の編集者を経て独立、教育ジャーナリスト。障害児教育の報道で知られる。元教育再生会議委員)
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